シーシェパード・コンサベーション・ソサイアティ(以下シーシェパード)は、南極海鯨類捕獲調査船団に対し何度も暴力的な妨害活動を行ってきたグリーンピースの創設メンバーの一人、ポール・ワトソンが1977年に創設した団体である。 シーシェパードはグリーンピースよりもさらに過激な暴力活動を行う狂信的とも言える反捕鯨団体で、過去にアイスランドやノルウェー等において停泊中の捕鯨船を何隻も沈めている。 昨年度の日本の南極海鯨類捕獲調査においては、グリーンピースとともに調査船団を攻撃し、調査母船のスクリューを狙ってワイヤーを投げ込んだり、所属船の舷側に取り付けた「缶切り(カン・オープナー)」と称する鋼鉄製の刃物で補給船のタンカーの船腹を破ろうとして外板に傷をつけるなどの暴力的な妨害活動を行った。
今年度の南極海鯨類捕獲調査に対しても、シーシェパードは早い時期から妨害活動を行うことを公言しており、前年度の妨害に用いたファーレイ・モワット号(657トン)を12月29日にホバート(オーストラリア)から出港させた他、新たに購入したロバートハンター号(1017トン)を1月にプンタアレナス(チリ)から出港させ、南極海で調査船団の探索を行った。 なお、ファーレイ・モワット号は、出港したその日にベリーズより船籍を剥奪された無国籍船(海賊船)であり、ロバートハンター号も、出航後に当時の船籍国であった英国から船籍の剥奪を通告された。
シーシェパードは、調査船団の位置情報に25000ドルの賞金をかけるなどして、南極海で調査船団の探索を行い、2月9日には調査母船日新丸(8030トン)を発見し、暴力的な妨害活動を行った。 この妨害活動中に、日新丸側に2名の負傷者が発生した。 さらに、2月12日には、調査母船とは別行動で目視調査を行っていた目視専門船海幸丸(860トン)に対し激しい攻撃を行い、その結果、海幸丸は船体に大きな損傷を受けて救難信号を発信した。
同日の妨害活動は日本時間02:20頃から始まり、まず速力の早いロバートハンター号が日新丸の左舷数メートルまで異常接近し、(1) 酪酸と思われる悪臭を放つ薬品の入ったガラス瓶の投擲(写真)、(2) 発煙筒の投擲(写真)、(3) 日新丸のスクリューへの絡まりを狙ったロープや網の曳航と投下(写真)等を行った。また、本来は救命索の射出に用いられる「もやい銃」を日新丸めがけて撃ち込んだ(写真)。03:00頃にはファーレイ・モワット号も現れ、同号から発進した大型ゴムボート2隻も、ロバートハンター号と同様にロープや網を日新丸のスクリューを狙って繰り返し投下した(写真)。 これらの妨害活動中、日新丸甲板部乗組員2名が、投げ込まれた薬品を浴び左目と顔面に化学熱傷を負った。
日新丸は、05:00頃には船速の遅いファーレイ・モワット号を引き離すことが出来たが、ロバートハンター号は日新丸に対して執拗に妨害を続けた。 しかしながら、同船は08:30頃突然反転し日新丸から離れ、その後まもなく日新丸に対し「メーデーメーデー、乗組員が海中転落した。救助を要請する。」旨連絡してきた。 調査団は、暴力的な妨害を受けた相手ではあったが、人道的観点及びシーマンシップに則り、遭難者の捜索への協力を開始した。 その後12:00に、ファーレイ・モワット号が遭難者を発見し、日新丸に対し「救助活動に感謝する」旨連絡してきたが、この連絡後に再び攻撃を宣言し、ロバートハンター号とともに日新丸に接近してきた。幸いな事に海況が悪化したため、日新丸は両船の追跡を振り切って難を逃れた。
なお、妨害中にシーシェパードによって海中に投げ込まれたロープや網のほとんどは、狙いがはずれて海に落ちた発煙筒や薬品瓶とともに、回収されることなく南極海に放置された。
海幸丸は通過方式(コースを一定に保って調査する方式)で目視調査中であったが、日本時間08:45に同船に接近して来る不審な船を発見した。 不審船がロバートハンター号と判明したため、海幸丸は調査を中断して避航に入ったが、速力に勝るロバートハンター号は降下させた大型ボートとともに海幸丸を追撃し、10:30頃よりボートから海幸丸のスクリューを狙って網とロープを執拗に投下した(写真)。 このうちの少なくとも1本はスクリューに絡み、海幸丸は一時航行が困難となった。このため11:37に海幸丸は、衛星通信を使い海賊に攻撃された際の救難信号(PIRACY ATTACK)を発信した。 しかしロバートハンター号は無抵抗で避航する海幸丸に対し左舷から異常接近し、発煙筒を多数甲板に投げ込みながら激しく体当たりして、海幸丸の船体を大きく損傷させた(写真)。 さらに遅れて来たファーレイ・モワット号も加わり、左舷側からファーレイ・モワット号、右舷側からロバートハンター号が挟み込む形で体当たりを行い、海幸丸を強制的に停船させた(写真)。 海幸丸が停船中も、ロバートハンター号は発煙筒を投げ込み続け、船尾に3回目の体当たりを行った(写真)。 執拗な攻撃は14:00頃まで続いたが、本海域の救難活動を担当しているRCCNZ(Rescue Coordination Centre New Zealand)がシーシェパード側と連絡を取った後に、ようやく攻撃は中断された。 その後すでに燃料が乏しかったシーシェパードの2隻は海幸丸から離れ、南極海からメルボルンに向かった。
(財)日本鯨類研究所と共同船舶株式会社は、2月28日付でプレスリリースを出し、国際条約に基づく正当な調査活動に対するシーシェパードの犯罪的な暴力行為に対し厳しく非難するとともに、このようなテロ組織に援助したり、船籍を付与したりするなどの一切の便宜を与えないよう、国際世論に強く訴えた(別紙)。
今次調査においても、グリーンピースはシーシェパードと同じく調査妨害のために同団体所属のエスペランサ号(2076トン)を1月26日にオークランド(ニュージーランド)から出港させた。 グリーンピースは公式にはシーシェパードとの関係を否定しているが、昨年度の調査妨害活動においては両者の緊密な連絡と協調ぶりが明らかとされており(資料:鯨研通信抜粋)、また、本年度調査においてもシーシェパードは、日新丸や海幸丸の発見位置をグリーンピース側に伝えた事を公言している。 幸い本年度調査ではエスペランサ号による調査船団の発見が遅れたため、グリーンピースによる船団への直接的な妨害活動は行われなかった。 しかしながら、昨年度調査における、グリーンピース所属船アークティックサンライズ号(949トン)による日新丸に対する体当たり等の激しい妨害活動を見れば、国際条約に則った正当な科学調査を暴力で妨害するという手法が、グリーンピースとシーシェパードに共通している事は明らかである。 (財)日本鯨類研究所は、このような「環境保護」を標榜しつつ暴力を行使するエコ・テロリストとも呼ぶべき両団体に対し断固抗議するとともに、引き続き、美辞麗句の裏で行われている両団体による卑劣な行為の不当性を国際世論に訴えて参りたい。
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