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鯨類食品における水銀汚染について

平成12年5月12日

平成12年5月11日に東京で開催された第79回日本食品衛生学会で、鯨類の肝臓等の「ゆでもの」から高濃度の水銀が検出されたことが発表されました。日本鯨類研究所は我が国の鯨類捕獲調査を実施し、その副産物である鯨肉を国際捕鯨取締条約に従い販売・配布していることから、この発表を高い関心を持って受けとめています。当研究所としても、副産物の食品としての安全性を確保することが第一と考えており、従来から副産物鯨肉の汚染物質の分析・発表を行ってきたところです。今回の発表についてもその内容をよく分析し、従来通り責任ある対応を行いたいと考えます。

他方、当研究所が販売・配布する副産物は清漣な南氷洋などの外洋域に生息するミンククジラから得られたものであることから、その化学物質による汚染は微量であることが判明しています(詳しくは以下の参考をご覧ください)。従って、それを食用とすることは健康に問題とはなりません。今回の発表は沿岸域で捕獲されたイルカ類に関するものであり、捕獲調査副産物に関するものではないと思われますので、消費者及び流通関係の方々が冷静な判断をされることを希望いたします。


<参考>

鯨類を含む海洋哺乳類は、海洋生態系の中で最高位を占める捕食者のひとつであることから、重金属や有機塩素化合物等を蓄積されやすい動物であり、学会での発表者が懸念している様に食品としての安全性には常に配慮を払う必要があります。また水銀やカドミウム等の重金属は肝臓や腎臓に、ダイオキシン類等の有機塩素化合物は脂肪に蓄積され易い性格があることから、有害物質を摂取してしまう危険性は動物の種類だけではなく、部位によっても異なってくることが消費者を混乱させることになります。

日本鯨類研究所では捕獲調査で採集したミンククジラの各部位に含まれる重金属や有機塩素化合物を従来から分析しております。たとえば、ミンククジラの各部位の総水銀の測定値は以下の通りです。


(単位ppm)

筋肉* 肝臓 腎臓
南極海ミンククジラ 平均値
最少‐最高
分析個体数
0.03
(0.003-0.07)
227
0.07
(0.004-0.35)
672
0.05
(0.004-0.33)
228
北西太平洋ミンククジラ 平均値
最少‐最高
分析個体数
0.21
(0.004-0.83)
498
0.67
(0.01-4.26)
498
0.83
(0.01-4.07)
498

*: 赤肉(副産物)


上記以外の部位についての総水銀測定例は多くありませんが、南極海ミンククジラで本皮0.01以下、畝須0.01、骨0.003以下、小腸0.006、前胃0.008、心臓0.069、膵臓0.006、ヒゲ板0.047といった数字があります。水銀が肝臓や腎臓に集中して蓄積されていることがお解り頂けると思います。北西太平洋のミンククジラが南極海のミンククジラに比べて総水銀濃度が高いのは、前者の主要餌種がサンマやイワシといった魚類であったのに対し、後者はプランクトンであるオキアミを主食としているためだと考えられます。

学会での発表にもありましたが、蓄積された水銀による影響はセレンという物質によって緩和されるとの説があります。水銀がセレンと1対1のモル比で結合して体内に蓄積され、セレンにより水銀の毒性が抑制されているという説です。これについては、一部魚類などについて報告が行われています。しかしながら、鯨類についてはまだ完全に証明はされておりませんが、水銀とセレンが1対1で蓄積されているとの報告がなされています。

ところで、日本鯨類研究所では研究用を除きミンククジラの肝臓は国内に持ち帰っておりません。腎臓につきましては、マメワタと称して伝統的に珍重する習慣が残されていることから、一部を副産物としても持ち帰っておりますが、その量は年間5.5屯(南極海4.8屯、北西太平洋0.7屯)で、赤肉類の0.4%以下です。

「捕獲調査副産物のダイオキシン類等について」でお知らせしてあるように、今回の水銀を含め南極海ミンククジラの赤肉は動物性食品の中で最も有害物質の少ない部類の食品のひとつと考えられますが、北西太平洋ミンククジラの例が示すように有害物質の含有量は個体毎に大きな差が生じる可能性が高いことから、今後はより一層こうした分析に努力を払っていくことにしております。

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