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捕獲調査副産物のダイオキシン等について

ミンククジラなどヒゲクジラ類の赤肉は、高タンパク質で低カロリー、そのうえ低コレステロールで鉄分の含有量が多いことから、栄養的に優れた食品であると評価されております。食物アレルギーによって一般的な蛋白源である牛、豚、鶏、イワシ、サバなどの食品を食べられない患者に代替蛋白源として用いられています。

一方最近、廃棄物焼却等を通して発生するダイオキシン類による生物体の汚染が問題になっていますが、PCBやダイオキシン等の有機塩素系化合物質の多くは、一度体内に入ると排出されにくい性質があるので、魚に比べて寿命の長い鯨類はこうした物質が体内に蓄積し易いことになります。

当研究所の調査によりますと、ミンククジラに含まれるダイオキシン類及び(同様の毒性を有する)コプラナーPCBsの量は表の通りで、他の海産哺乳類の有機塩素化合物についての報告と同様、筋肉で低い値、特にダイオキシン類は検出限界以下である一方、脂皮部には魚介類よりも高い濃度で蓄積をしていることがわかります。国内で流通する鯨類の生産物は、捕獲調査によるミンククジラの 約2,000トンを始め、小型捕鯨業やイルカ漁業によるハクジラ類を含めても4,500トン以内で、870万トン(農水省、食料需給表平成8年速報)と言われる食用向け魚介類の流通量の0.1%以下であり、また、国民一人当りの鯨肉摂取量は、年間40g(脂皮部分のみでは9g)以下となります。


捕獲調査副産物の脂皮及び筋肉中のダイオキシン類及びコプラナーPCBsの濃度(pg-TEQ/g)

種   名 部位 標本数 ダイオキシン類
(pg-TEQ/g wet)
コプラナーPCBs
(pg-TEQ/g wet)
南極海ミンククジラ 脂皮 0.10〜0.13 1.1〜2.2
筋肉 N.D.** 0.004〜0.03
北西太平洋ミンククジラ 脂皮 0.49〜1.4 10〜41
筋肉 N.D.** 0.19〜0.76

*:ダイオキシン類、コプラナーPCBs濃度は、WHO(1997)に従い、2,3,7,8-TCDD毒性等量値として表示した(ppt:pg-TEQ/g)。

**:2,3,7,8,-位塩素置換異性体である17異性体全てが検出限界値以下(<0.08〜<0.2pg/g wet)

***:耐容摂取量は標準体重を50kgとして、耐容摂取ダイオキシン類及びコプラナーPCBsの合計量を4pg/kgBWとして算出した。


考察

1.脂皮と筋肉とで濃度に大きな差があるのは、有機塩素系化合物が油に溶け易い特徴からもたられるものです。鯨類は脂肪(油)分を主として皮に蓄えており、筋肉には脂肪分が他の生物に比べて非常に少ないため、ダイオキシン類が蓄積されにくい特徴を有しています。

2.平成9年度の厚生省による食品実態調査の研究結果によれば、魚介類(8種類)のダイオキシン類が0.060〜2.642(ppt)で、コプラナーPCBが0.051〜7.755(ppt)の範囲でありました。これに比べると、鯨類では、生産の75%以上を占める赤肉類からはダイオキシン類は南北ミンククジラとも 検出されておらず、またコプラナーPCBも低濃度でした(南ミンク 0.004〜0.03ppt、北ミンク  0.19〜0.76ppt)。また脂皮は親油性の高い有機塩素化合物を比較的高く含有しており、ダイオキシン類では南ミンクで0.10〜0.13ppt、北ミンクで0.49〜1.43ppt、コプラナーPCBでは南ミンクで 1.1〜2.2ppt、北ミンクで10〜41pptが検出されています。しかしながら、鯨類の脂皮は加工してから利用される場合が多く、これによりダイオキシン類が脂肪とともに減少するとも考えられることから、製品状態での分析を今後実施する必要があります。

3.南極海ミンククジラの値が低いのは、南半球が北半球に比べて海洋汚染の度合が少ないこと、並びに動物プランクトンであるオキアミが主要な餌生物で食物連鎖の低次動物の捕食者であるためと考えられます(北太平洋ミンククジラは盛んに魚類を補食しています)。

4.海洋汚染の原因となる物質は、河川や空気を経由して陸上から流入するものが70%以上を占めていて、その大半は人間の経済活動や生活の結果、排出されたものです。PCBの生産は世界のほとんどの国で中止されてから20年以上が経過していますが、南極海で採集したミンククジラの脂皮に含まれるPCB量は、全体として低レベルにあるものの、年々増加する傾向が認められています。捕獲調査によって採集されたミンククジラの脂皮に蓄積されるこうした汚染物質の継続的観察 によって、陸上起源の人工有機塩素化合物の環境汚染が地球全体に広がって行くメカニズムの解明に大きく貢献する可能性が高まっております。

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