本調査はIWC(国際捕鯨委員会)と日本が共同で実施しているもので、IWCでは通称IWC-POWER (International Whaling Commission/Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research )と呼ばれています。この調査は、2009年度まで南極海で行われていた成功例として世界的に高い評価を得ているIWCの調査計画IWC/SOWER(International Whaling Commission/Southern Ocean Whale and Ecosystem Research:南大洋鯨類生態系調査、1996/97年度〜2009/2010年度)での経験と実績を踏まえ、そのノウハウ等を活用して、IWC科学委員会の主要研究計画に基づき、2010年度より毎年夏期に実施されています。
2010年から2025年までの16年間の調査はIWC-POWERフェーズI(短期計画)と位置付けられ、主に北東太平洋の広域を対象に実施されました。過去数十年にわたり広域的な鯨類目視調査が行われていなかった海域において、この16年間でナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、マッコウクジラなどの多数の発見がありました。また、希少種であるシロナガスクジラやセミクジラの分布情報も得られたほか、遺伝学的サンプルの空白域であった北極海のチュクチ海では多数のコククジラのバイオプシー標本が採集されるなど、多くの成果とともにフェーズIは完了しました。収集されたデータは、北太平洋の大型鯨類の客観的な資源評価の基盤となっています。
今回の第17回調査航海は、フェーズIの成果を踏まえ、IWC-POWERプログラムのフェーズII(中長期計画)の初年度として位置付けられました。フェーズIIは、テクニカルアドバイザリーグループ(TAG)での検討に基づき、北太平洋における大型鯨類の管理・保全に資する客観的な資源評価をさらに発展させることを目的としています。
本年の調査は、北緯40度以北、西経155度‐西経135度の北東太平洋公海域で実施されました。この海域では2021年にも調査が実施されています。本調査には日本2名・米国1名・韓国1名の合計4名の国際調査員が参加し、7月17日から10月5日にかけて調査を実施しました。
この目視調査は、IWC と日本の共同調査として IWC科学委員会がその計画の策定を行い、同委員会内に設置された POWER 運営グループ(コンビーナー:松岡耕二・(一財)日本鯨類研究所)が計画の立案と調査の実施を主導しました。調査は当研究所が水産庁から委託を受け、国立大学法人東京海洋大学、米国 NOAA/AFSC(海洋大気庁/アラスカ水産科学センター)などの関係研究機関と協力しながら実施されました。
(1) ザトウクジラの資源評価に関する情報の収集
(2) 希少種であるシロナガスクジラ、セミクジラの分布、系群構造に関する情報の収集
(3) 資源情報が不足しているその他の鯨類資源について資源量と系群構造に関する情報の収集
(4) 中長期計画の継続的発展に必要な海洋データ(海水温、漂流物等)を含む基礎情報の収集
(5) 海洋熱波("The Blob"、2014-16年)の影響を受けた海域に関する情報の収集
2026年7月17日−10月5日(81日間)
北緯40度以北・西経155度〜西経135度の公海(図1)。
アラスカのコディアック港に寄港し米国調査員の乗下船や調査資材の積下ろしを行いました。
IWC科学委員会が指名した下記の4名の調査員によって調査が行われました。
勝 俣 太 貴; 調査団長、日本・東京鯨類研究所
Bernardo Alps; 米国・IWC選任国際調査員
In - Woo Han; 韓国・韓国国立水産科学院 鯨類研究所
鈴 木 ひより; 日本・IWC選任国際調査員
第二勇新丸(747トン、(株)共同船舶所属、野島親正船長以下16名)
● 今回の調査海域では過去にザトウクジラは発見されなかったが、本年は20群以上が発見され、本種の分布に関する新たな知見が得られました。
● シロナガスクジラについても13群15頭の発見があり、前回調査を上回る発見数であったことから、資源の回復を示唆する結果となりました。
● 調査海域ではナガスクジラやイワシクジラが多数発見されました。
● 発見したクジラに対しては、個体識別写真の撮影やDNA分析用のバイオプシー・サンプル(表皮標本)採取、潜水行動を調査するための衛星標識の装着を行いました。
● 今後の詳細な解析により過去の調査との比較が可能であり、海洋熱波の影響評価、資源のトレンド解析、分布変化の検出といった研究への活用が期待されます。
1,526海里 (2,826 km)
シロナガスクジラ 13群15頭、ナガスクジラ 66群116頭、イワシクジラ 50群122頭、ミンククジラ 1群1頭、ザトウクジラ 26群40頭、マッコウクジラ 24群32頭、シャチ 2群14頭
(1)個体識別写真撮影(撮影個体数)
シロナガスクジラ 12頭、ナガスクジラ 30頭、イワシクジラ 63頭、ザトウクジラ 14頭、シャチ 11頭
(2)バイオプシー採取(個体数)
シロナガスクジラ 5頭、ナガスクジラ 2頭、イワシクジラ 7頭、ザトウクジラ 1頭
(3)衛星標識装着(個体数)
イワシクジラ 2頭
(4)海洋漂流物(発見数)
調査海域において68件の海洋漂流物を記録しました。
図1. 2026年の調査海域(緑色)とその調査コース(青色)
写真:2026年度調査の様子
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| イ)ブリーチングするザトウクジラ | ニ)衛星標識を装着したイワシクジラ | |
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| ロ) 呼吸のため浮上するナガスクジラ | ホ)国際調査員と乗組員の集合写真(コディアック港) | |
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| ハ)シロナガスクジラを対象にしたバイオプシー標本の採取 |