・日本周辺海域を含む北太平洋全域にわたる大規模な目視調査が実施され、北太平洋全域におけるナガスクジラの資源量が初めて推定されました。
・ナガスクジラの商業捕鯨停止時の1976年に比べて、同種資源の回復が示唆されました。
・資源評価に使える資源量推定値が得られました。
ナガスクジラは北半球・南半球ともに広く分布する外洋性の大型ヒゲクジラの一種です(下図右下)。 日本周辺海域を含む北太平洋全域に生息し、夏は主に北緯40度以北で摂餌し、冬に低緯度海域で繁殖するとされています。 本種は、1900年代初頭からシロナガスクジラに次ぐ大型種として商業捕鯨で過剰に捕獲され、1976年に国際捕鯨委員会(IWC)の規制により商業捕鯨が停止されました。 商業捕鯨によってダメージを受けた鯨資源の資源状況や分布状況を把握するために、1980年代以降、北太平洋では日本国政府が中心となり、また2010年以降は一部IWCとも共同で、船舶を用いた目視調査が実施されてきました。
弊所の研究チームは、日本の沿岸から西経135度、北緯35度からベーリング海に広がる本種の既知の夏の生息海域において実施された、2008年から2022年の総計28,770海里(約53,300km)に及ぶ大規模な目視調査による発見情報をもとに、北太平洋全域におけるナガスクジラの個体数を推定しました(下図は目視調査がカバーした海域を示す)。 これらの調査はIWCが定めたガイドラインに沿って設計され、データの一貫性を保持するためにすべての船舶に共通機材を搭載して実施されました。 目視調査に基づくこのような広範囲のナガスクジラ資源量推定値が得られたのは初めてのことです。 その結果、最近年の夏季におけるアリューシャン列島以南の北太平洋全域におけるナガスクジラの個体数は45,344頭(変動係数(CV)= 0.167)、ベーリング海では10,234頭(CV = 0.202)と推定され、1976年以降、資源が回復していることが示唆されました。 これらの推定値は本種の保全や資源管理の目的のために使用可能です。
タイトル:First large-scale abundance estimates of fin whales (Balaenoptera physalus) in the North Pacific: Implications for management
著者:Megumi Takahashi, Koji Matsuoka, Takashi Hakamada
掲載誌:Journal of Sea Research, Volume 208, 2025, 102647, ISSN 1385-1101,
URL:https://doi.org/10.1016/j.seares.2025.102647