本調査は、日本国政府が従来実施してきた南極海における鯨類資源の持続的利用を目的とした資源調査(非致死的調査)を継続するもので、令和元年6月30日の国際捕鯨委員会(IWC)脱退後、南極海における第5回目の調査航海となります。 本年度の調査は、南極海において鯨類目視調査、バイオプシー試料の採集、衛星標識の装着や海洋観測などを行いました。 本調査の結果は、南極海における鯨類資源の適切な管理等に貢献するため、IWC/科学委員会や南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)/生態系モニタリング管理作業部会及び北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)/科学委員会といった国際機関に報告する予定です。
調査船である第三勇新丸及び第二勇新丸は、令和5年12月8日に宮城県塩釜港を出港し、令和6年1月7日から2月11日までの36日間にわたり、南緯60度以南の南極海において鯨類目視調査や各種実験・観測を実施して、3月15日、第三勇新丸は広島県瀬戸田港に、第二勇新丸は宮城県塩釜港に帰港しました。
本調査は、水産庁補助事業により、当研究所が中心となって計画の立案と実施並びに結果の分析を主導しています。
本年度の調査は、IWCの管理海区の一つである第W区の西側海域(南緯60度以南の東経70度から東経100度までの海域)を対象海域として、2隻の調査船により実施しました。
調査では、鯨類の資源量推定に必要な過去の調査と一貫性のある目視データを収集し、多数のバイオプシー試料を採集した他、鯨類への衛星標識装着などにより様々な非致死的調査データの収集にも成功しました 。昨年度に引き続き、本年度も調査船2隻体制で実施したことにより、効率的に調査を実施することができました。 また、今期は、チリ共和国CEQUA*の研究者1名が乗船し、調査に参加しました。
調査では、シロナガスクジラをはじめ、クロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ等の複数鯨種が確認され、南極海に来遊する多くの鯨種が健全な資源状態を維持していることが示唆されました。
最も多く発見されたのは、ザトウクジラで調査海域のほぼ全域にわたり高密度で分布していました。 その次に多く発見されたのは、ナガスクジラで主に調査海域の北側に分布していました。 3番目に発見数が多かったクロミンククジラは、調査海域の南側での発見が多く、特に南極大陸近くの水域では高密度に分布していることが確認されました。
今期の調査では、ナガスクジラとザトウクジラの分布域の拡大とクロミンククジラの分布域の極在化が観察されました。 近年、ザトウクジラとナガスクジラの著しい資源回復と分布域の拡大が確認されるなか、それらのクジラと餌生物のナンキョクオキアミをめぐり競合関係にあるクロミンククジラは、従来の主要分布域である氷縁近辺の海域から、ザトウクジラやナガスクジラが入り込まない、氷縁の奥へ分布域を変化させていると考えられています。 今期の調査では、これらのクジラの分布変化を裏付ける、資源研究上、重要な情報を収集することができました。
さらに、本年度は、当研究所が開発を進めてきたVTOL-UAV(垂直離着陸型・自律型無人航空機)「飛鳥」を調査に本格投入し、自律飛行により総距離551kmにおいて、鯨類や海氷の情報を収集しました。
*Center for the Studies of the Quaternary of Fuego Patagonia and Chilean Antarctic (CEQUA), Punta Arenas, Chile
(1) 南極海における大型鯨類の資源量およびそのトレンドの研究
(2) 南極海における大型鯨類の分布、回遊ならびに系群構造の研究
航海日数:
航海日数:99日間(第三勇新丸及び第二勇新丸)
第三勇新丸:令和5年12月8日(塩釜港出港)〜令和6年3月15日(瀬戸田港入港)
第二勇新丸:令和5年12月8日(塩釜港出港)〜令和6年3月15日(塩釜港入港)
調査日数 (調査海域):36日間
令和6年1月7日(開始)〜令和6年2月11日(終了)
本年度の調査海域は、南極海にあるIWCの管理海区の一つである第W区の西側海域で、南緯60度以南の東経70度から東経100度までの海域(図1)でした。 また、日本から調査海域への往復航海の海域において中低緯度目視調査を実施しました。
図1. JASS-A調査海域、青枠:全調査海域、桃色:本年度の調査海域
第三勇新丸
磯田辰也(調査団長:(一財)日本鯨類研究所 資源量推定チーム長)以下5名*
*チリ共和国CEQUAから研究者1名が乗船
第二勇新丸
吉田 崇(副調査団長:(一財)日本鯨類研究所 調査センター準備室長)以下4名
第三勇新丸(742トン、共同船舶(株)所属、阿部敦男船長 以下17名))
第二勇新丸(747トン、共同船舶(株)所属、大越親正船長 以下16名)
磯田調査団長、吉田副調査団長、阿部船長、大越船長 以下42名が乗船し、調査航海に従事しました
指定鯨類科学調査法人・一般財団法人 日本鯨類研究所
7,746.0 海里 (約 14,345.6 km)
シロナガスクジラ 16群 19頭、ナガスクジラ 204群 472頭、クロミンククジラ 116群 183頭、ザトウクジラ 900群 1,768頭、ミナミセミクジラ 4群 5頭、イワシクジラ 14群 24頭、ニタリクジラ 2群 2頭、マッコウクジラ 74群 100頭、ミナミトックリクジラ 12群 24頭、 シャチ 23群 276頭
(1) 距離角度推定実験
目視観察者ごとの鯨類の発見角度と距離の推定精度を求めるために距離角度推定実験を実施しました。
(2) 自然識別写真撮影(個体数)
シロナガスクジラ 16頭、ザトウクジラ 94頭、ミナミセミクジラ 5頭、シャチ 84頭
(3) バイオプシー試料採集(個体数)
シロナガスクジラ 8頭、ナガスクジラ 9頭、クロミンククジラ 3頭、ザトウクジラ 24頭、ミナミセミクジラ 4頭、イワシクジラ 3頭、シャチ 3頭
(4) 衛星標識装着
鯨類の移動並びに潜水行動の記録を目的として、ナガスクジラ 6頭、クロミンククジラ 2頭、ザトウクジラ 3頭に対して衛星標識を装着しました。
(5) XCTD(投下式塩分水温深度計)による海洋観測
調査海域における海洋構造と鯨類分布の比較を目的として、観測点 148ヵ所で水深 0m 〜 1,850mまでの水温と塩分濃度を測定しました。
(6) ドローンを活用した撮影実験
VTOL-UAV「飛鳥」の自律飛行により総距離551kmにおいて、鯨類や海氷の情報を収集しました。
(7) 海洋漂流物(マリンデブリ)観察
本年度は、南極海の調査海域において、海洋漂流物1個(プラスチック製ブイ)を確認しました。
写真:2023/2024年度南極海鯨類資源調査(JASS-A)の様子
シロナガスクジラ | シロナガスクジラの親子(奥側が仔鯨) | ナガスクジラの噴気 |
クロミンククジラ | ザトウクジラのブリーチング | 潜水するザトウクジラ |
ミナミセミクジラ | シャチ | 船上より飛び立つVTOL-UAV「飛鳥」 |
VTOL-UAV「飛鳥」により撮影された2頭のザトウクジラ(左下の円) | 氷山帯での目視調査 | ザトウクジラの自然標識写真の撮影 |
海氷の中を航行する第三勇新丸 | ザトウクジラのバイオプシー標本 |
過去の調査の動画は、当研究所Youtubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCz3c9IIMiQPVeryAogmJIig)でご覧になれます。