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2018年度北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)
−日新丸調査船団による沖合調査航海を終えて−


平成30年8月22日
一般財団法人 日本鯨類研究所

(1) 経緯

北西太平洋鯨類科学調査は、日本政府が策定した新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP:通称 ニューレップ エヌピー)に基づき、昨年からオホーツク海沿岸と北日本太平洋側を調査海域として開始された調査です。
日本政府は、2016年11月に同計画案を策定して、国際捕鯨委員会科学委員会(IWC/SC)に提出し、IWC/SCによるレビューを踏まえて最終化し、2017年6月6日に調査計画をIWCに提出するとともに、同調査を開始しました。
NEWREP-NPは、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出と、沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出に必要な情報を収集することを主目的とし、時空間的な系群構造や、性成熟及び年齢などの生物学的特性値の情報を収集し、IWCの改訂管理方式(RMP)による捕獲枠算出方法において、その精度向上に貢献することを目指しています。 加えて、バイオプシー採集、自然標識撮影及び衛星標識を用いた非致死的調査によって得られる情報も併せて収集し、鯨類資源管理に貢献することを目指しています。
NEWREP-NPは上述の調査海域で沖合域調査と沿岸域調査から構成され、調査期間は12年で、6年目の調査終了後に中間レビューを行う予定になっています。
一般財団法人日本鯨類研究所は、日本国政府からの特別許可を受けて、NEWREP-NPの沖合域調査を担当しています。 ここでは、第2回のNEWREP-NP沖合域調査の航海の概要について報告します。


調査概要

第2回のNEWREP-NP沖合域調査は、5月17日に出港後、90日間の調査活動を行い、8月22日に帰港しました。 この間、台風や低気圧の通過などの天候不良の影響を受けながらの調査となりましたが、鯨類の捕獲調査及び非致死的調査など、所定の調査を行うことができました。


1. 調査目的

@ 日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出
A 沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出


2. 実施機関

一般財団法人 日本鯨類研究所


3. 調査海域

日本沿岸から東経170度まで、北緯35度以北の北太平洋(7WR、7E、8、及び9海区)の一部海域

調査海域図
図1.今次調査の調査海域

4. 航海日数及び調査日数

航海日数:  平成30年5月17日(出港)〜平成30年8月22日(入港) 98日間 (調査母船・勇新丸)
平成30年5月17日(出港)〜平成30年8月20日(入港) 96日間 (第三勇新丸)
調査日数:  平成30年5月18日(開始)〜平成30年8月15日(終了) 90日間


5. 船団構成

1)調査員

調査団長 小西 健志((一財)日本鯨類研究所 調査研究部 海洋生態系研究室主任研究員)
(一財)日本鯨類研究所より 他4名

2)調査船と乗組員数(出港時:調査員を含む)

調査母船 日 新 丸 ( 8,145トン 江口 浩司 船長以下98名)
目視採集船 勇 新 丸 ( 724トン 阿部 敦男 船長以下 19名)
目視採集船 第三勇新丸 ( 742トン 大越 親正 船長以下 19名)


6. 総探索距離

6,422海里(目視採集船2隻の合計)


7. 主な鯨類の発見数

(調査船団の合計)
イワシクジラ 289群 413頭
ナガスクジラ 44群  47頭
ミンククジラ 48群 50頭
ニタリクジラ 37群 43頭
シロナガスクジラ 8群 11頭
ザトウクジラ 34群 38頭
マッコウクジラ 168群 303頭
シャチ      29群 181頭


8. 標本採集数

イワシクジラ 134頭
ミンククジラ  43頭


9. バイオプシー標本採集数

イワシクジラ 7頭
シロナガスクジラ 1頭
ミンククジラ 1頭


10.衛星標識装着数

イワシクジラ 8頭
ミンククジラ 1頭


11.自然標識記録(個体識別用写真撮影)

シロナガスクジラ 3頭


調査結果要約

@ 今年度のミンククジラの採集は、調査期間全般の5月下旬から8月中旬にかけて、東経143度から169度まで、北緯38度から北緯50度までの広い海域で行いました(図2)。 採集した43頭のうち、雄は34頭、雌は9頭でした。 成熟率は雄82%、雌78%と雌雄ともに高い値を示しました(表1)。 ミンククジラは、東経150度から155度付近と、9海区の北緯48度から50度付近に局所的に点在するという傾向が見られました。 採集した全ての個体について生物調査を実施し、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出のために必要となる年齢査定のための耳垢栓や性成熟判定に必要な卵巣や精巣などの繁殖系の標本を採集しました。 また、日本近海の系群構造のさらなる理解に必要なDNA情報、性成熟に関する情報を収集しました。

発見位置

図2. 2018NEWREP-NPの調査コースと採集したミンククジラ及びイワシクジラの発見位置

:ミンククジラ、:イワシクジラ)黒線は通常調査、赤線は特別調査


性状態組成

表1. 2018NEWREP-NPで採集した鯨体標本の性状態組成


A 今年度のイワシクジラの採集は、5月下旬から8月上旬にかけて、東経147度から170度までの東西に幅広い海域で実施しました(図2)。 今年も、イワシクジラは北緯39度から45度付近の海域に広く分布し、その中で局所的に高密度海域を形成するという傾向が見られました。 採集したイワシクジラ134頭は、雄63頭、雌71頭で、雌の割合がやや高く(表1)、昨年と同様の結果を得ました。 また成熟率は雄で73%、雌で76%であり、雌雄ともに高い値を示しました。 また、RMPの精度向上に必要となる年齢情報を得るための耳垢栓や性成熟判定に必要な卵巣や精巣などの繁殖系の標本を、全ての個体から採集しました。 今後、得られた情報は同種の資源管理に利用されます。


B 採集された全ての鯨から、汚染物質、海洋プラスチックなどのマリンデブリ(海洋漂流物)や環境変化が鯨類に与える影響を調べるための化学分析用の組織標本や胃内容物標本、あるいは様々な部位の計測など、数多くのデータや標本を収集しました(表3)。 これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後、様々な分野の研究者により分析及び解析が行われ、研究成果についてはIWCや各分野の学会などで公表される予定です。 また、北西太平洋における鯨類資源の適切な保存及び管理への貢献が期待されます。

調査項目と一覧

表3. 2018NEWREP-NPで実施した生物調査項目と標本の一覧


C 本年調査におけるミンククジラとイワシクジラの胃内容物は、昨年に引き続きマイワシが卓越し、加えてサンマやサバ属魚類が主要餌生物として観察されました(表2)。 ミンククジラとイワシクジラの分布、食性と環境変化の関係は、近年の海洋環境の変化やクジラの生態を知る上で重要であり、NEWREP-NPにおいても課題の一つとして調査・研究を進めています。 以前、主要餌生物として観察されてきたカタクチイワシは、2014年以降観察されず、本年も観察されませんでした。 これは、鯨類の主要餌生物が、北西太平洋で起こっている魚種交代を反映した結果であると考えています。 また、昨年みられたヒメドスイカが今年は見られなかったなど、年ごとに食性の違いがある事も明らかになりました。 鯨類の食性調査によって、鯨類と他の生物との関係を理解し、海洋生態系を考慮した鯨類資源の管理に貢献することが期待されます。

胃内容物組成

表2. 2018NEWREP-NPで採集した鯨体標本の胃内容物組成


D 非致死的調査として、昨年と同様にバイオプシースキン標本採集、衛星標識装着実験、自然標識記録(個体識別用写真撮影)、距離角度推定実験を実施しました。 バイオプシースキン標本採集は19回行い、イワシクジラ7頭、シロナガスクジラ1頭及びミンククジラ1頭から標本を採集しました。 今後、採集した標本を用いて、性成熟段階や食性を明らかにするための諸解析等に取り組む予定です。 自然標識記録は、シロナガスクジラ3頭に対して実施しました。 これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後、様々な分野の研究者により分析及び解析が行われ、来年のIWC/SCなどに報告する予定です。 衛星標識はイワシクジラに13回実験を行い、8頭に装着成功しました。 また、今年は装着の難しいミンククジラ1頭への装着も成功しました。 現在も位置情報を取得している個体もあり、鯨類の摂餌期における移動様式の解明が期待されます(図3)。

移動経路

図3. 2018NEWREP-NPにおいて実施した衛星標識によるイワシクジラの追跡

(青は7/25、赤は7/5に装着した個体)


今後の分析でわかること(本調査の科学的貢献)

耳垢栓を用いた年齢査定法は、現在最も信頼性のある方法として評価されており、IWC/SCで幅広く利用されてきました。 NEWREP-NPでは、得られた耳垢栓から年齢査定を行い、このデータをRMPへ導入して精度を向上させることで、より適切な鯨類資源管理の下で捕獲枠の算出が可能となります。 このことは、IWCの理念を鑑みても、大きな貢献となることが期待されます。 この他に、RMP運用に必要な鯨類の系群構造理解のための遺伝子データも引き続き蓄積され、新しい解析手法も交えて国内外の研究者により解析が進められています。 イワシクジラにおける今までの標本を用いた研究からは、北太平洋の外洋域において異なる系群の存在を支持するような時空間的な遺伝的分化は見られず、1つの系群で占められることが示唆されています。 また、2016年から行われている衛星標識を用いた摂餌期間における位置情報を解析することで、移動経路の解明も進める予定です。 IWC/SCでは、今後北太平洋のイワシクジラ資源の詳細評価が行われ、RMPの適用試験が開始されることになりますが、これらの作業にもNEWREP-NPの調査成果が貢献していくと考えています。 また、ミンククジラについては、これまでIWC/SCで行われてきたRMPの適用試験において報告されたJARPN/JARPNIIの調査成果によって北太平洋に2つの系群が存在する可能性が示唆されていますが、これに加えてNEWREP-NP等の標本を用いた研究から、さらに時空間的な系群構造の解明が進むことが期待されます。 NEWREP-NPで得られたデータは引き続き解析を行い、IWC/SC、学会等での議論を通じて、鯨類を含む海洋生物資源の持続的利用に貢献することが期待されます。


これまでの北西太平洋における鯨類捕獲調査の成果とそれに対する科学的評価

2000年から2016年まで行われたJARPNII調査では、鯨類の摂餌生態、環境汚染物質のモニタリング、鯨類の系群構造解明に有用なデータが17年間にわたって蓄積されました。 これらの知見は多分野にわたっており、国内外の研究者にとっても非常に価値あるものとなっています。 2016年にIWC/SCが主催した外部専門家グループによるJARPNII最終レビュー会議では、「JARPNIIにおける調査とその解析のレベルは素晴らしいものであり、クジラの餌選択性と消費量の推定における不確実性の解析は非常に進歩した。 またJARPNIIにより、日本周辺の鯨類における汚染物質の研究が大いに進歩した。 さらに、鯨類の保護と管理に必要な系群構造においても、JARPNIIの調査と研究は大いに貢献した」との高い評価を受けています。

こうした捕獲調査の成果や科学的評価については、当研究所のホームページでも参照できます(http://www.icrwhale.org/Tokubetsukyoka.html)。 また、2017年の第1回NEWREP-NPの調査結果は、2018年のIWC/SCにて既に報告されています。


(参考) 国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1. この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。

2. 前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。


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ミンククジラの耳垢栓 イワシクジラの胃内容物:マイワシ イワシクジラの胃内容物:サンマ
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イワシクジラの外部形態計測 イワシクジラへの衛星標識装着・バイオプシー実験 シロナガスクジラへの自然標識実験

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