2011/12年JARPAIIにおいて、調査船団は米国の環境テロリスト団体(注1)、シーシェパード・コンサベーション・ソサイアティ(以下SS)の所有する、オランダ船籍の妨害船スティーブ・アーウィン号(SI号)およびボブ・バーカー号(BB号)から、継続して激しい妨害を受けた(注2)。 調査船は、妨害船のボートから、「プロップファウラー」と呼ばれるスクリューと舵の破壊を目的とした鉄塊やワイヤーを装着した太いロープを執拗に投げ込まれた。 また調査船乗組員は、酪酸や塗料を詰めたガラス瓶や発火弾、発煙弾を多数投擲されたほか、強力なランチャーで酪酸瓶を撃ち込まれる、空気銃で塗料弾を大量に撃ち込まれる、信号弾を水平発射されるなどの暴力をくり返し受け、生命の危険にもさらされた。 調査船団は、妨害船よりも速力の劣る調査母船日新丸が、妨害船に捕捉されないよう全力を尽くし、予定通りの日程で調査を最後まで完遂したが、調査活動はSSからの回避行動のために、合計15日間にわたり中断を余儀なくされたほか、目視調査を始めとするいくつかの計画された調査活動が実施できなかった。
注1.SSは環境保護団体を自称しているが、その過激な活動から米国連邦捜査局(FBI)は、2002年の議会報告で、彼らの活動から環境テロリズム(eco-terrorism)が広がったと述べており、環境テロリストとして分類されるべきである。
注2.当初SSは、これら2隻に加えて、昨年から妨害活動に投入した豪州船籍のブリジット・バルドー号(旧名:ゴジラ号)を南極海に向かわせたが、暴風圏で遭難大破し、フリマントル港に戻った。
昨年の2010/11年JARPAIIでも、SSは3隻の妨害船を用いて、プロップファウラーの投入、発火弾、酪酸の投擲など、調査船団に対して激しい妨害行為をくり返した。乗組員の生命・財産および調査船の安全を確保する観点から、農林水産大臣の判断により、調査活動は予定された調査期間半ばの2月18日に調査を切り上げることとなった。 このため、今次調査については、水産庁監視船の派遣、海上保安官の乗船などの安全対策を強化した上で、実施することとなった。
1月4日午後6時頃(日本時間)、BB号を追航監視していたYS3が、BB号から妨害を受けた。 BB号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS3に接近し、ボートからロープやワイヤーを曳いてYS3のプロペラや舵を狙って船首直前を30回以上横切り、さらにブイを装着したロープを船首直前に8回投入した。 また、妨害行為の最中にボート船尾のレーダーマストをYS3左舷船首に接触させた。 YS3はこれに対し、BB号活動家に向けて警告放送を行うとともに、無用の接近・妨害活動を思いとどまらせるために放水を行った。
1月6日午前4時10分頃(日本時間)、BB号を追航監視していたYS3が、BB号から2度目の妨害を受けた。 BB号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS3に接近し、ボートからロープを曳いてYS3の船首直前を横切り、さらにブイや鉄管、ワイヤーを装着したロープを船首直前に11回投入した。 また、ボートから発煙筒3本を投擲したが、船体外壁に命中し船内には届かなかった。 YS3はこれに対し、BB号活動家に向けて警告放送を行うとともに、無用の接近・妨害活動を思いとどまらせるために放水を行った。
1月11日午後4時50分頃(日本時間)、SM2とともにSI号を追航監視していたYS2が、SI号から妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS2に接近し、ボートからプロペラや舵を狙ってロープを船首直前に2回投入した。 また、ボートから酪酸および塗料の入った瓶を併せて20本以上を投擲し、船内に7本が着弾した。 YS2はこれに対し、ボートを回避しつつ無用の接近・妨害活動を思いとどまらせるために放水を行った。
1月18日午前0時10分頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS2が、SI号から再び妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS2に接近し、ボートからワイヤーや鉄塊を装着したロープを船首直前に6回投入した(写真1)ほか、ロープのついた鉄製のかぎ爪(スマル)を船に数回投げつけた。 また、ボートから塗料瓶約30本を乗組員に向けて投擲した他、ランチャーを使用して船に撃ち込んだ。 さらにSS活動家は、舷側で警戒する乗組員の目前でナイフをかざし、YS2がプロペラ保護のために取り付けている器具の固定ロープを切断した(写真2)。 YS2はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水を行った他、投入されたロープがプロペラに到達する前に回収するよう努めた。 また、ボートの活動家によるナイフを使った破壊行為に対しては、竹竿を用いて押し返した。 これらの妨害行為により、乗組員2名が塗料を浴びたが怪我はなかった。 また侵入者防止用に船首側に設置したフロート1個が、SSによって持ち去られた。
1月21日午前7時頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS2は、SI号から3度目の妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS2に接近し、強力なランチャーを使って酪酸や塗料の入った瓶を約20発撃ち込んだ(写真3)ほか、20本以上の瓶を船に向けて投擲した。 YS2はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水および音声による警告をくり返し行った。また、船体の安全を確保するため、船尾から接近警告用のブイを曳航してボートの接近を牽制した他、接近したボートに対し、水を入れた消火器を用いて警告した。
2月11日午後2時20分頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS2は、SI号から4度目の激しい妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS2に接近し、ロープを船首直前に7回以上投入(写真4)し、空気銃を使って刺激性物質を詰めた弾を数十発撃ち込んだほか、途中から3隻目のボートとジェットスキー1艇も加わり、発煙筒、酪酸瓶、塗料瓶を数十本投擲した。 YS2はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水および音声による警告をくり返し行った。 また、船体の安全を確保するため、船尾から接近警告用のブイを曳航してボートの接近を牽制したが、SSによって切断された。 これらの妨害行為により、YS2の乗組員に怪我は無かったが、船体が酪酸と塗料により汚損し、プロペラにロープが数本絡まった。
2月12日午前7時20分頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS2は、前日に引き続きSI号から5度目の激しい妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート2隻に乗ったSS活動家がYS2に接近し、ワイヤーや鉄管を付けたロープを船首直前に9回投入したほか、発煙筒を5本、酪酸や塗料入りの瓶を約21本投擲した(写真5)。 YS2はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水および音声による警告をくり返し行った。 また、船体の安全を確保するため、船尾から接近警告用のブイを曳航してボートの接近を牽制したが、再度SSによって切断されてしまった(写真6)。 これらの妨害行為により、YS2の乗組員に怪我は無かったが、船体が酪酸により汚損した他、プロペラにロープが絡まり、前日に絡まったロープと併せ、航行に若干の支障が出た。
2月15日午前11時頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS3は、SI号による激しい妨害を受けた。 SI号から降ろされたゴムボート3隻に乗ったSS活動家がYS3に接近し、プロペラや舵を狙ってロープを船首直前に11回投入したほか、YS3は発煙筒1本、酪酸入りの瓶7本、ペイント入りの瓶24本、ペイント弾50発以上を被弾した。 YS3はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水および音声による警告を繰り返し行った。
2月22日午前11時25 分頃(日本時間)、SI号を追航監視していたYS3は、SI号による激しい妨害を再び受けた。 SI号から降ろされたゴムボート3 隻に乗ったSS活動家がYS3に接近し、プロペラや舵を狙っておもり付きのロープを船首直前に12 回投入した(写真7)。 また、信号紅炎(赤い炎を発する発炎筒)1本のほか酪酸や塗料が入った瓶多数を投擲した(写真8)ほか、空気銃でペイント弾を発射し、発煙筒8本、酪酸瓶2本、塗料瓶26本、ペイント弾50発以上がYS3の船体に被弾した。 YS3はこれに対し、ボートの接近と妨害活動を思いとどまらせるために放水および音声による警告を繰り返し行った。 これらの妨害行為により、乗組員1名が、割れた瓶と飛散した酪酸を胸に浴び、酪酸が顔面に付着したが、洗浄等の処置が早かったため、火傷や腫れの症状は見られなかった。 また、投入されたロープがYS3のプロペラに絡まったほか、船体が酪酸及びペイントにより汚損した。
3月5日19時30分頃(日本時間)、1日の調査活動を終えて移動中のJARPAII船団がBB号に遭遇した。 速度の遅い調査母船日新丸(NM)は、安全のためただちに回避行動に入り、この間にYS2およびYS3が、BB号によるNMへの妨害行動を思いとどまらせるために、音声による警告と共に船尾から接近警告用のブイを曳航してBB号の行動を牽制した。 BB号はYS2およびYS3に向けて、信号弾を40発以上発射したほか、強力なレーザーを約50分間にわたり照射した(写真9)が、YS2およびYS3の乗組員および船体に被害はなかった。
(財)日本鯨類研究所および共同船舶株式会社は、調査船団の船長らと共に、2011年12月9日、アメリカ合衆国ワシントン州連邦地方裁判所において、SSおよびその代表ポール・ワトソンに対して妨害行為の差止めを求め提訴した。 本訴訟の目的は、南大洋において行われるJARPAIIに従事する船舶やその船長、乗員と調査員の安全がSSおよびポール・ワトソンの活動によって損なわれないよう、その妨害行為の差止めを求めるものである。
被告であるSSとポール・ワトソンによる調査船団への妨害は、年を追うごとにエスカレートしている。 海上の安全を著しく脅かす彼らの妨害活動は、国際海事機関の決議(Resolution MSC. 303 (87))及び国際捕鯨委員会の決議(Resolution 2011-2)にも反し、調査船の乗員や調査員の生命をも脅かす危険な行為である。 本訴訟では、SS所属の妨害船が調査船の乗員や調査員及び船舶に攻撃を行わないこと、および妨害船が調査船の一定距離に近寄らないことを求めるとともに、併せて、裁判所の仮処分による差止め命令を求めたものであった。
しかしながら、妨害差止めの仮処分については、2012年2月17日にワシントン州連邦裁判所が、これを認めないとの判断を示した。 日本鯨類研究所と共同船舶株式会社は、ワシントン州連邦裁判所のこの決定を大変遺憾と思うが、幸いなことに、今次調査においては、妨害の影響は大きかったものの、大きな事故や怪我人を出すことなく調査を終了することができた。 今後とも我々の請求が次年度以降の調査で認められるよう全力を尽くす所存である。
以上
(左)写真1:ボートから調査船YS2の船首直前に、ワイヤーや鉄塊を装着したロープ(プロップファウラー)を投入するSS活動家(1月18日)。
(右)写真2:ボートを調査船YS2の舷側に横付けし、乗組員の目前に小型ナイフをかざすSS活動家(1月18日)。
(左)写真3:調査船YS2の乗組員に対し、ボートから強力なランチャーで薬品入りのガラス瓶を発射するSS活動家(1月21日)。
(右)写真4:調査船YS2の船首直前に、ボートからプロップファウラーを投入するSS活動家(2月11日)。
(左)写真5:調査船YS2に向けてボートから発煙筒を投擲するSS活動家(2月12日)。
(右)写真6:ボートの接近を牽制するために、調査船YS2の船尾から曳航した接近警告用ブイのロープを、大型ナイフで切断しようとするSS活動家(2月12日)。
(左)写真7:調査船YS3の船首直前に、ボートからプロップファウラーを投入するSS活動家(2月22日)。
(右)写真8:調査船YS3に向けてボートから酪酸瓶を投擲するSS活動家(2月22日)。
写真9:調査船YS2に向けて、強力なレーザーを照射するBB号(3月5日)。