IWC(国際捕鯨委員会)/日本共同北太平洋鯨類目視調査は、IWC-SOWER(International Whaling Commission-Southern Ocean Whale and Ecosystem Research:南大洋鯨類生態系調査、1996/97年度〜2009/2010年度) プログラムの終了を受け、そのノウハウ等を活用して、2010年度よりIWCと日本との共同で実施されているプログラムです。
IWC-SOWERは、その前身であるIDCR(International Decade of Cetacean Research:国際鯨類調査10ヶ年計画、1978/79年度〜1995/96年度)と合わせ32年間にわたって実施され、南極海のクロミンククジラをはじめとする鯨類資源の資源量とそのトレンドを明らかにするなど、IWCで最も成功した国際共同調査プログラムとして知られています。日本は、長年にわたってこの調査プログラムに対し調査船舶とその乗組員を提供し、その継続的実施に貢献してきました。
IWC/日本共同北太平洋鯨類目視調査では、IWC科学委員会の主要研究課題に則した調査計画が2010年より実施されており、昨年の調査では、過去数十年にわたって広域的調査が実施されてこなかった海域において、多数のナガスクジラやイワシクジラが発見され、貴重なデータが収集されました。今回は、その第2回目の調査航海となります。
なお、本年のIWC科学委員会では、本プログラムの名称を、IWC-POWER(Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research:太平洋鯨類生態系調査)とすることが決定されています。
本件目視調査は、IWCと日本国政府が共同して実施するもので、IWC科学委員会が調査計画の策定を行い、同委員会内に設置されたPOWER運営グループ(コンビーナー:加藤秀弘東京海洋大学教授)の主導の下、(独)水産総合研究センター国際水産資源研究所(旧:遠洋水産研究所)や米国NOAA/NMFSアラスカ漁業科学センター等関係機関が協力して、具体的な調査航海計画の立案を行いました。
調査航海は、水産庁からの委託を受け、(財)日本鯨類研究所が実施しました。本年の調査計画とその結果概要は以下のとおりです。
(1) イワシクジラ(及びナガスクジラ等その他の鯨種)の資源量推定
(2) イワシクジラ、ナガスクジラ及びマッコウクジラ(及びその他の鯨種)の系群構造に関する情報の収集(特にバイオプシー・サンプルの採取)
(3) 北太平洋セミクジラ、シロナガスクジラ等希少鯨種の個体識別写真撮影及びバイオプシー・サンプルの採取
2011年7月11日(下関出港)−9月8日(函館入港)(全60日間)
北緯40度以北、アリューシャン列島以南、西経170度以東-西経150度以西(公海及び米国200海里水域を含む。)
松岡耕二(調査団長、日本、(財)日本鯨類研究所)
サリー・ミズロフ(米国、NOAA/NMFSアラスカ漁業科学センター)
第三勇新丸(742トン)
3,097.8海里(約5,740km)
シロナガスクジラ10群10頭、ナガスクジラ82群141頭、イワシクジラ58群95頭、ザトウクジラ76群133頭、マッコウクジラ95群119頭
(1)バイオプシー・サンプル採取(個体数)
シロナガスクジラ4頭、ナガスクジラ12頭、イワシクジラ31頭、ザトウクジラ1頭から、バイオプシー・サンプルを採取しました。これらのサンプルは、各鯨種の系群構造の解明等に役立てられます。
(2)個体識別写真撮影(個体数)
シロナガスクジラ9頭、ザトウクジラ48頭、ナガスクジラ25頭・イワシクジラ27頭等について、個体識別写真を撮影しました。これらは各鯨種の回遊生態や生活史を解明する上で貴重な情報となります。
(3)海洋漂流物記録
調査海域との往復で通過した日本近海では、東日本大震災の津波を原因とするものと思われる海洋漂流物が多数発見されました(海洋漂流物記録:合計132件(漁業用浮子等71件、材木等23件、その他冷蔵庫、タイヤ、転覆小型船等))
以上
(左から) 写真1.バイオプシー・サンプル採取風景 写真2.ナガスクジラからのバイオプシー・サンプル採取風景 写真3.イワシクジラの親子