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第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)
−2009/10年(第五次)調査航海の調査結果について−


平成22年4月12日
財団法人 日本鯨類研究所


1.JARPAIIの概要

当研究所は日本政府からの調査実施許可と財政支援を受けて、1987/88年から2004/05年に至る18年間の長期にわたって、 南極海のクロミンククジラ資源に関する科学的情報を収集して、鯨類の持続的利用の達成に資することを目的として南極海鯨類捕獲調査(JARPA)を実施し、多大な成果をあげた。
JARPAで得られたデータの解析から、南極海生態系がナンキョクオキアミを鍵種とする単純な構造をもち、オキアミを巡ってヒゲクジラ類の間で競合関係があること、 さらに、初期の商業捕鯨による乱獲で低水準にあったザトウクジラ、ナガスクジラ等の資源も、商業捕鯨モラトリアム導入以前から実施されて来た資源保護により、 近年では目覚ましい回復傾向を示していることも示唆された。 これらの調査結果は、いずれも、ヒゲクジラ類資源を適切に管理していくためには、単一鯨種ごとに資源動態やその将来予測を行うのではなく、南極海生態系の構成員としての鯨類の位置付けを明らかにし、 鯨種間関係も併せて総合的に考える必要のあることを示している。
この結果を受けて、我が国は鯨類を含む南極海生態系のモニタリングを行うとともに、適切な鯨類資源管理方法の構築に必要な科学的情報を得るために、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を実施することを決定した。 財団法人日本鯨類研究所は、日本政府からの調査実施許可及び財政支援を受けて、JARPAに引き続き2005/06年から本調査を開始した。
JARPAIIの調査目的は、(1) 南極海生態系のモニタリング、(2) 鯨種間競合モデルの構築、(3) 系群構造の時空間的変動の解明、(4) クロミンククジラ資源の管理方式の改善である。 JARPAIIは、致死的調査と非致死的調査手法を組み合わせた、南極海における世界最大の総合的な鯨類調査である。


2.今次調査の結果概要


今次調査は、JARPAII本格調査の3年目であった。 今次は、暴力的な妨害団体であるシーシェパードによる執拗かつ危険な妨害活動が、過去最も長期且つ過激になり(薬品等投擲5隻、体当たり被害2隻)、延べ31日間にわたって捕獲調査を中断せざるを得なかった。


(1) 調査海域:

南極海第III区東側、第IV区並びに第V区西側及び東側の一部(東経35度以東、東経175度以西)の南緯60度以南〜氷縁際までの海域で実施予定であった。 なお、妨害活動回避のため、今次調査では主として南緯62度以南での調査となり、IV区東側の全域やIII区東側、IV区西側及びV区西側の一部で調査が実施できなかった(図1)。

調査海域図
図1.今次調査の調査海域。
目視専門船のみ調査を実施した海域を薄灰色、目視専門船及び目視採集船が調査を実施した海域を濃灰色で示した。

(2) 航海日数及び調査日数:

航海日数: 平成21年11月19日(出港)〜平成21年4月12日(入港)   145日間*
調査日数: 平成21年12月14日(調査開始)〜平成22年3月20日(終了)  97日間
*調査母船の出入港日

(3) 調査員:

調査団長 西脇 茂利 ((財)日本鯨類研究所 調査部長)  以下14名

(4) 調査船と乗組員数(帰港時、監督官、調査員を含む):

調査母船 日新丸  (8,044トン 小川 知之船長 以下128名)
目視採集船 勇新丸 (720トン   佐々木 安昭船長 以下19名)
目視採集船 第二勇新丸 (747トン 三浦 敏行船長 以下19名)
目視専門船 第三勇新丸 (742トン 廣瀬 喜代治船長 以下20名)
目視専門船 第二昭南丸 (712トン 小宮 博幸船長 以下22名)
合計 208名

(5) 総探索距離(仮集計):

8,232.0 浬 海里

(6) 主な鯨種の発見数(一次及び二次発見の合計):

クロミンククジラ 986群 2,242頭
シロナガスクジラ 24群 40頭
ナガスクジラ 56群 189頭
イワシクジラ 1群 2頭
ザトウクジラ 603群 1,187頭
ミナミセミクジラ  2群 2頭
マッコウクジラ 127群 130頭
ミナミトックリクジラ 30群 48頭
ミナミツチクジラ 1群 5頭
ミナミオウギハクジラ 2群 4頭
シャチ 51群 829頭

(7) 標本採集数:

クロミンククジラ 506頭 (オス:237頭,メス:269頭)
ナガスクジラ     1頭 (オス:1頭)

(8 )自然標識記録(個体識別用写真撮影):

シロナガスクジラ:8頭、ザトウクジラ:103頭、ミナミセミクジラ2頭

(9) バイオプシースキン標本採取数 :

ザトウクジラ:84頭、ナガスクジラ1頭、ミナミセミクジラ:1頭

(10) 排泄物および吐き戻し調査:

排泄物の観察: クロミンククジラ2頭、ナガスクジラ2頭及びザトウクジラ2頭
遊泳中の吐き戻し: 観察なし

(11) 海洋観測:

TDR(鉛直水温情報): 57点

(12) 調査結果要約(捕獲調査で分かったこと):

目視採集船は、妨害による未調査海域を除き、調査海域全体からクロミンククジラ506頭を採集した (V区:158頭、IV区西側:49頭、プリズ湾:53頭、III区東:246頭)。成熟率は、雄が81.0%、雌が74.0%であり、成熟雌に占める妊娠個体の割合は92.5%と例年同様に高かった。 また、双胎が2例観察された。

今次の調査海域は、例年以上に海氷縁が南下していたため、南極圏以南の水域を広範囲にわたって調査することができた。 調査年によっては、海氷の影響によりクロミンククジラの分布が分かりにくいこともあったが、過去の調査で示唆されているようにクロミンククジラは高緯度に成熟雌個体が卓越することが本調査でも明らかになり、 分布の実態を解明する上で、貴重な情報が収集できた。

III区東において、過去の調査で標本の少ない1-2月に調査を行い、多数のクロミンククジラを採集した。 南側では、成熟雌個体が卓越しており、この時期のIII区東におけるクロミンククジラの分布についての貴重な情報を収集した。 また、この時期はクロミンククジラの来遊盛期にあたるが、採集した個体の中には南極海に来遊して間もないと考えられる小型の胎児を有する成熟雌個体が比較的多く含まれていた。 クロミンククジラは受胎した個体から順番に南極海に来遊すると考えられており、本種の回遊時期を解明する上で重要な標本を得ることができた。

クロミンククジラは、IV区西やV区西では成熟雄が卓越していたのに対し、IV区プリズ湾では成熟妊娠雌が卓越しており、海区によって性成熟組成に違いが見られた。

今年度の調査では、クロミンククジラの未成熟個体(体長範囲5.16m〜8.62m)を115個体採集したが、今までと同様に、胃内容物の結果からミルクが含まれている個体はいなかった。 このことから、離乳前の個体は本調査海域に分布していないことが示唆された。

クロミンククジラの食性はナンキョクオキアミが中心であるが、氷が沿岸域まで融けていた今年度の調査では、水深の浅い海域でコオリオキアミやコオリイワシを捕食していた個体が多く認められた。 本種の地理的な食性の違いを解明する上で、重要な情報を得ることができた。

ナガスクジラは、III区東において、体長:17.61メートル、体重34.20トンの雄個体を採集した。 これは過去のJARPA2で採集した最小の雄個体である。採集した個体については、詳細に組織重量を測定するなど、本種の基礎的な生物学的情報を収集した。

採集されたすべての鯨から、数多くのデータや標本が得られた。 これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後様々な分野の研究担当者に引き渡されて分析及び解析が行われ、その成果はIWCや各分野の学会などで公表される(表1)。

表1.2009/10JARPA2における採集したクロミンククジラ及びナガスクジラの生物調査項目の要約

表1

(13) 調査結果要約(目視調査で分かったこと):

発見された鯨類は、ヒゲクジラ亜目6種、ハクジラ亜目5種であった。 発見群数を見ると、クロミンククジラ(986群2,242頭)が優占種で、ザトウクジラ(603群1,187頭)、ナガスクジラ(56群189頭)がこれに次いでいた。
今次の調査海域は、例年以上に海氷縁が南下していたため、南極圏以南の水域を広範囲にわたって調査することができた。 クロミンククジラは水深500m以浅の南極大陸近くの沿岸浅海域で発見があり、ザトウクジラは海氷が密集している水域に発見はあるものの、水深500m以浅では発見がなかった。 このように、クロミンククジラとザトウクジラの発見分布は、重なる水域もあったが、調査海域内では両者で棲み分けしていた(図2)。
ザトウクジラのバイオプシースキン標本を過去最高の84頭分採集した。本種(603群1,187頭)は、調査海域のほぼ全域に分布していたが、特にIV区西側で高密度に分布していた(図2)。過去の調査結果と同様に、今次調査でも改めて本種の資源の順調な回復ぶりが示された。 今後はザトウクジラとクロミンククジラとの間の餌をめぐる関係や分布の変化要因を調査していくことで、近年の鯨類の資源動態の変動メカニズムを明らかにすることが可能となるであろう。
ナガスクジラの発見が56群189頭で、これまでの調査と異なり、クロミンククジラやザトウクジラとの混在する水域が少なかった。
シロナガスクジラ(24群40頭)は、全ての発見がIII区東とIV区西であった(図2)。 本種に対しては、非致死的調査である個体識別写真を8頭について撮影したが、バイオプシー標本は採集できなかった。
シャチ(51群829頭)は、特に水深500m周辺に分布しており、本種にとって重要な索餌場であることが伺えた(図2)。


図2. 目視専門船によるクロミンククジラ(上段)、ザトウクジラ(中上段)、その他大型ヒゲクジラ類 (中下段、シロナガスクジラ(◆)、ナガスクジラ(▲)、イワシクジラ(◇)、ミナミセミクジラ(sighting)及びシャチ(下段)の発見位置。 黒線は氷縁の位置。赤線は水深500mの等深線。

発見位置


(参考1)
調査母船日新丸が入港する「大井水産埠頭」は、国際条約(SOLAS条約)に基づく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」により、 国際埠頭施設の制限区域に指定されているため、関係者以外の立ち入りが禁止されている。また、マスコミによる随時の取材は認められない。
(参考2)

国際捕鯨取締条約第8条(抜粋)

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、 及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる

2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。

以上

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