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2009年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)
−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて−


平成21年7月28日
財団法人 日本鯨類研究所


(1)経緯

当研究所は日本政府からの特別採捕許可を受けて、1994年から1999年までミンククジラの系群情報の収集を主目的とした北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)を実施しました。 この調査によって、日本列島を挟んだ太平洋側と日本海側のミンククジラが各々独立した繁殖活動を行っている集団(系群)であることが明らかになりました。 さらに、この調査では、ミンククジラが日本漁業の主要対象魚種であるサンマやカタクチイワシ、スケトウダラ、スルメイカ等を大量に捕食していることが明らかになり、また、鯨類の分布と漁場とが重なっていることから、 鯨類と漁業活動との競合関係を強く示唆した結果を得ました。 これらの調査結果は、1999年にIWC/SCによってレビューされました。
このような調査結果とIWC/SCでの議論から、鯨類を含む水産資源の包括的管理のためには、鯨類及びその餌生物を含めた総合的な調査が必要であることが認識されました。 そして、JARPNを発展させた第二期調査(JARPNII:通称 ジャルパン・ツー)が計画され、2000年から実施されています。
このJARPNIIの最優先課題は、鯨類が消費する餌生物の種類や量、鯨類の餌生物に対する嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、 それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の水産資源の包括的管理に貢献することにあります。
そのため、捕獲調査対象鯨種を、従来のミンククジラ(体長8m、資源量25,000頭)に加えて、ミンククジラより大型で総生物量も大きく、 その捕食量が生態系に与える影響が大きいと推定されるニタリクジラ(体長13m、資源量20,500頭)やマッコウクジラ(体長雄15m・雌11m、資源量102,000頭)、 更にミンククジラの資源量を超えるまでに回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長14m、資源量28,500頭(東太平洋を含まず))を含めました。 また、鯨類が利用している餌生物の分布や存在量を推定するため、計量魚探や中層トロールを装備した餌環境調査船を用いて、鯨の捕獲調査と併行して餌環境調査を行っております。
JARPNIIでは、こうした鯨類の摂餌生態調査の他に、鯨類や海洋生態系への化学汚染物資の影響の把握や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいます。
今回入港する日新丸船団は、JARPNIIの沖合域調査を担当していますが、 この他、沿岸域の捕獲調査(春季に三陸沖、秋季に釧路沖)がJARPNII計画の下で実施されており、主に小型捕鯨船が担当しています。
我が国が実施している捕獲調査は、国際捕鯨取締条約(ICRW)の第8条(別記参照)によって締約国の権利として認められている正当な科学調査です。 また、漁業資源の適切な管理の実現に向けた鯨類調査の実施の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く支持されています。
なお、これまでにJARPNIIで収集されたデータおよび標本に基づく調査・研究の結果については、本年1月にIWCが主催して横浜で開催された専門家グループによる評価会議において審議され、 高い評価を受けました。その報告書は、本年6月に開催されたIWCの科学委員会において報告されています。


(2)調査計画概要

JARPNIIは、国際捕鯨取締条約に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を経て、2002年より本格調査を実施しています。本年調査計画の概要は以下のとおりです。


1.調査目的:

(1) 鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明

(2) 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握

(3) 鯨類の系群構造の解明

2.調査海域:

北緯35度以北、日本沿岸から東経170度までの北西太平洋(7、8、及び9海区)の一部海域

調査海域図

図1.JARPNIIの調査海域

3.標本採集頭数:

本調査における予定された標本数は昨年と同様で、次の通りです。
ミンククジラ 100頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ  10頭

4.調査結果概要:

本年度の沖合域調査は、低気圧の接近の連続や長期間の霧などの天候不順に悩まされ、予定されていた調査海域のうち、 北側については十分な調査をすることができませんでした。 このため、イワシクジラとニタリクジラについてはほぼ計画どおり捕獲調査を行うことが出来ましたが、ミンククジラについては予定されていた標本数を採集することが出来ませんでした。
しかしながら、今年の調査では、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。

(1) ミンククジラは、これまでの調査から、日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、 沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌種を利用していることが明らかになってきました。
今年度の調査においても、5〜6月にカタクチイワシを、7月にサンマを主に捕食していました。 また、餌環境調査船との共同調査を2週間にわたって実施し、ミンククジラとその餌生物の分布や資源量に関する情報を同時に収集することに成功しました。

(2) イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、 サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることが、これまでのJARPNII調査から明らかになってきました。
今年度の調査においても、イワシクジラは5-7月にかけて沖合域(8海区から9海区)に広く分布し、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、 サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用しているなどの情報が蓄積されました。また、イワシクジラは、海域や時期によって異なる餌生物を利用しており、 その要因については、餌環境調査船との共同調査によって得られた情報とともに、今後の解析によって明らかになることが期待されます。

(3) ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミ、カタクチイワシ及びヤベウキエソを捕食し、分布にも年変動のあることをこれまで明らかにしてきました。
今年度の調査では、これまでほとんど調査していなかった、6月の沖合域のニタリクジラの分布とその食性についての情報を得ることができました。主要餌生物は、カタクチイワシやキュウリエソなどの魚類でした。

(4) JARPNII調査は、鯨類の捕獲調査に加えて、鯨類の餌環境調査も併せて実施しています。 今年度は、水産総合研究センター 遠洋水産研究所の俊鷹丸が餌環境調査船として参加し、日新丸船団と合同で7月の約2週間にわたり、計量魚探とトロールやプランクトンネットによる餌環境調査を実施しました。

(5 自然標識撮影やバイオプシー採集により、シロナガスクジラなどの大型のヒゲクジラ類の画像や組織標本の収集を行いました。




(参考)国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、 殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。
2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。



調査母船日新丸が入港する大井水産埠頭は、国際条約(SOLAS条約)に基づく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」により、
国際埠頭施設の制限区域に指定されているため、関係者以外の立ち入りが制限されておりますので、ご注意下さい。



2009年JARPNII沖合域鯨類捕獲調査の結果概要

1.期間

航海期間:  平成21年5月11日(出港)〜平成21年7月29日(入港) 80日間*
調査期間:  平成21年5月16日(開始)〜平成21年7月25日(終了) 71日間
* 2隻の目視採集船の航海期間は、5月10日から7月28日までの80日間。

2.船団構成
1)調査員・監督官

調査団長   坂東武治((財)日本鯨類研究所 研究部 鯨類生物研究室主任研究員)
日本鯨類研究所より 坂東武治  他10名
遠洋水産研究所より 渡邊 光  他1名

2)調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船 日 新 丸 ( 8,044トン  江口 浩司 船長以下132名)
目視採集船 第三勇新丸 (  742トン  佐々木 安昭 船長以下 19名)
目視採集船 第二勇新丸 (  747トン  三浦 敏行 船長以下 19名)
目視採集船 勇 新 丸 (  720トン     廣瀬 喜代治 船長以下 18名)
餌環境調査船 俊 鷹 丸   (  887トン    澤田石 誠 船長以下 27名)

3.総探索距離

7,358浬 (目視採集船3隻の合計、仮集計)

4.主たる鯨類の発見数 (一次及び二次発見の合計: 仮集計)

ミンククジラ 66群69頭
イワシクジラ 271群492頭
ニタリクジラ 78群93頭
マッコウクジラ     130群310頭
シロナガスクジラ 14群16頭
ナガスクジラ 44群62頭
ザトウクジラ 29群31頭
セミクジラ        1群1頭

5.標本採集頭数

ミンククジラ 43頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ   1頭

6.実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター 遠洋水産研究所


発見位置

図2.2009JARPNIIで採集したミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ
及びマッコウクジラの発見時の位置

:ミンククジラ、:イワシクジラ、:ニタリクジラ、:マッコウクジラ)。
赤枠は、俊鷹丸との生態系共同調査海域。


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