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2008/09年第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)
−妨害行動の概要−


平成21年4月14日
財団法人 日本鯨類研究所


2008/09年JARPAIIにおいて、調査船団は米国の反捕鯨団体(注1)、シーシェパード・コンサベーション・ソサイエティの所有するオランダ船籍の妨害船、スティーブ・アーウィン号から、 人命を顧みない激しい妨害を受けた。妨害船からの体当たりにより3隻の調査船が船体損傷を受けた他、国際指名手配犯を含む活動家たちから、上記3隻を含む5隻が有害な化学物質や信号弾を武器とする攻撃を受け、 調査船乗組員は生命の危険にさらされた。回避行動や直接的な妨害のために、調査活動は合計16日間にわたり影響を受けた。


シーシェパード スティーブ・アーウィン号による妨害


シーシェパード(以下SS)は、2005/06年JARPAIIでグリーンピースとともに調査活動を妨害して以来、年々その行動に過激さを増してきている。 SSは昨年(2008年)6月に今期のJARPAII妨害計画を発表し、豪州を中心に精力的に資金集めキャンペーンを行った後、2008年12月4日にスティーブ・アーウィン号(以下SI号:1,000トン級)を単独で豪州ブリスベーンから出港させた(注2)。 出港に際しては米国人女優を数日間乗船させるなど、メディアの反応を強く意識したキャンペーンを展開した(注3)。 その後SI号はニューキャッスル港を経由してタスマニア南部のホバートに入港し、12月10日に南極海へ向けて出港した。


注1.シーシェパードは環境保護団体を自称しているが、その過激な活動から米国連邦捜査局(FBI)は、2002年の議会報告で、彼らの活動から環境テロリズム(eco-terrorism)が広がったと述べている。

注2.SI号は昨秋、ヘリコプター格納庫を新設するなどの改造を受けている。2006年にSSが購入した時点での総トン数は1,017トンであったが、現在はそれより大きいものと推測される。

注3.SSは昨年度の妨害活動の際、TV製作会社アニマル・プラネット社の撮影隊を乗船させており、彼らが製作したTVシリーズ「クジラ戦争」は複数の国で放映された。 アニマル・プラネット社の撮影隊は今期の妨害航海にも参加している。


第二勇新丸への襲撃未遂(12月20日)

12月19日、第二勇新丸は捕獲調査活動中に氷でプロペラを損傷した。修理のためにはドックに入れる必要があり、同船は12月20日朝に船団を離脱して北上を開始した。 09:06(日本時間)、第二勇新丸が氷海を北上中のところ、吹雪で視界不良の中からSI号が現れた。SI号はボートを降下して攻撃をする構えを見せたが断念し(注4)、その後は反転して第二勇新丸の航行してきた方角に離れていった。


注4.SS側の発表によれば、ボートは攻撃用の化学薬品を搭載して発進したが、悪天候と計器故障のために引き返したという。


海幸丸への襲撃(12月26日)

12月26日、調査船団本隊に先行して目視調査を行っていた目視専門船海幸丸が、夜間移動中の18:07(日本時間)に、視界不良の中でSI号と遭遇した(写真1)。 SI号は海幸丸に対して酪酸(注5)や塗料の入ったガラス瓶を多数投擲した上、後方から接触してきた(注6)。 接触の後にSI号から海幸丸へ無線が入り、南極海からの退去を求める声明文を女性が日本語で読み上げた。


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1.目視専門船海幸丸後方に迫るSI号(2008年12月26日)


注5.酪酸はSSが以前から攻撃に使用している化学薬品で、割れやすいガラス瓶に充填して居住区や乗組員に向けて投げつけられる。 SSは、以前はこの薬品が酪酸であることを隠さなかったが、調査船団への暴力的な攻撃がメディアで大きく報道されるにつれ、「人体に無害な腐ったバター」と称するようになった。 WHOの「国際化学物質安全カード」によれば、「身体への影響は、咽頭痛、咳、灼熱感、息切れ、息苦しさ。皮膚への暴露は、痛み、発赤、熱傷を生じる。眼への暴露は、重度の熱傷、視力喪失を生じる。 経口摂取により、灼熱感、腹痛、ショック症状または虚脱を生じる。この物質を環境中に放出してはならない。水生生物に対して毒性がある。」とされる。 JARPAII船団では、SSの投げつけた酪酸により、過去計5名の負傷者が出ている。

注6.海幸丸は2007年1月にもSI号(当時の船名はロバート・ハンター号)に左舷中央に体当たりされ、大きな損傷を負っている。 海幸丸は鯨類目視調査や海洋環境調査、餌生物調査など、非致死的調査を任務とする調査船で、鯨の捕獲活動はない。


第二共新丸の行方不明者捜索を妨害(1月6日)

1月5日未明、目視専門船第二共新丸の白崎玄操機手が行方不明となり、落水事故と判断された。 第二共新丸は、ただちに現場海域の救難活動を担当するニュージーランドの当局に連絡を取るとともに、調査船団各船が現場に急行した。 各船が合流し、海上捜索のパターンに従って一斉捜索を行っていたところ、1月6日19:45(日本時間)、SI号が法定灯火を消灯した状態で接近してきた(注7)。 その後SI号からは、女性が日本語で「捜索を支援する」と告げてきたが、危険を感じた船団がこれを断ったところ、SI号は「捜索支援を受け入れないことを了解した。 捜索活動終了後は妨害を再開する」と宣言した。SI号は第二共新丸の至近距離に接近して周囲を回り始め、同船は衝突の危険を回避するために捜索活動を中断して停船を強いられた。
その後SI号は現場から離脱し、給油のため、豪州のホバートに向かって行った。


注7.海上転落者の捜索海域に、捜索パターンを無視して無灯火で侵入してくることは、転落者を轢いてしまう可能性がある非常識な行為である。


調査船団への襲撃(2月1日〜6日)

SI号は1月17日に豪州のホバートに入港し、給油と物資補給を終えた後、1月21日に再び調査船団を妨害するため南極海に向けて出港した。
2月1日07:35(日本時間)、調査活動中の船団付近にSI号が現れ、日新丸に接近してきた。船団は安全確保のため避航を開始したが、翌2月2日の朝までに至近距離に追いつかれた。
2月2日03:06(日本時間)、SI号はマストに各種の旗を掲揚し、ヘリコプターとボートを発進させて攻撃を開始した。 ボート上の活動家らは船団各船に対して酪酸などの入ったガラス瓶を多数投擲し、またプロペラを狙って船舶を航行不能にする特殊なロープ(PED:Propulsion Erosion Device)を繰り返し海中に投入した(注8)(写真2−5)。


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(左から)
2.調査母船日新丸に酪酸瓶を投げるSS活動家達(2009年2月2日)
3.第三勇新丸を攻撃するSSボートと撮影を行うヘリコプター(2009年2月2日)
4.勇新丸のプロペラを狙ってPEDを流すSS活動家達(2009年2月2日)
(下段)
5.第三勇新丸が回収したSSのPED。放置すれば南極海の生物の脅威となっていただろう(2009年2月2日)


2月3日及び4日もSI号は日新丸に執拗にまとわりつき、衝突の危険を感じた日新丸は汽笛による疑問信号を度々吹鳴した。船団は回避のための移動を続けた。
2月5日、SI号はヘリコプターとボートを発進させ、再び調査船団各船への妨害活動を開始した。 ボート上の活動家らは船団各船に対して酪酸瓶を多数投擲したほか、第三勇新丸に対しては50mm径のロープを船首直前に投入した。 SSは、これに加え、SI号から直接調査船を狙って信号弾や救命索発射ロケットを何度も撃ってきた(注9)。直接の被害はなかったものの、勇新丸に向けて発射されたロケット弾は、船の上をかすめて後方に着水した(写真6-8)。

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(左から)
6.SI号から調査船に向けてロケット弾が発射された瞬間(2009年2月5日)
7.勇新丸頭上をかすめた救命索発射ロケット(2009年2月5日)
8. SS代表のポールワトソン(中央)自らも調査船に向けてロケット弾を撃った(2009年2月5日)


また、SI号はおよそ100mの長さのもやい綱を船尾から曳航して日新丸の船首前を横切るという行動もとった(写真9)。

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9.調査母船日新丸のプロペラを狙ってSI号から流されたもやい綱は、長さ100mに達した(2009年2月5日)


2月6日、船団は捕獲調査再開を試みた。SI号はこの日はボートを発進させず、船尾からプロペラにからめるためのロープを曳航したり、酪酸瓶の投擲やロケット弾の発射を行ったりした。 05:20(日本時間)、SI号は勇新丸が採集した鯨体を調査母船日新丸に引き渡す際に、付近で警戒に当たっていた第二勇新丸に体当たりをし、船尾にいた乗組員に向かって酪酸瓶を投げつけた(写真10)。

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10.日新丸後方で警戒に当たっていた第二勇新丸船尾にSI号が体当たりをした(2009年2月6日)


また、SI号によって、日新丸も酪酸瓶などの投擲を受ける被害を受けた他、勇新丸は船尾で警戒中の乗組員が金属製のボルトを投げつけられた。 15:59(日本時間)、採集した鯨を渡すために日新丸船尾付近で作業中の第三勇新丸にSI号が急接近し、30本近くの酪酸瓶を投擲した後、いきなり右に大きく舵を切って第三勇新丸左舷に激しく体当たりした(写真11-12)。

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(左から)
11-12.調査で採集した鯨体を母船に渡そうとした第三勇新丸の左舷後方に、SI号が激しく体当たりした(2009年2月6日)


両船は接触したまま大きく傾斜し、この間にSI号の活動家2名が船首から大型フックをつないだロープを投げ込んで第三勇新丸に乗り移ろうと試みたが未遂に終わった(写真13)。

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13.第三勇新丸に激突したSI号の船首から、活動家二人がロープを使って侵入しようとした(2009年2月6日)


第三勇新丸はボートデッキ左舷のハンドレールを全損し、外板の凹損やデッキに亀裂を生じるなど、大きな損傷を受けた(写真14)。

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14.SI号の衝突で破損し、酪酸瓶の破片が飛び散る第三勇新丸の後部デッキ(2009年2月6日)。


2月7日、SI号は船団を追航するのみであった。2月8日、捕獲調査を再開した船団の後方にいたSI号は、無線で呼びかけてくる事もなくそのまま去って行き、2月20日に豪州ホバートに入港した。


注8.PEDは16.5mのロープにフロート24個と錘などが付いた装置で、船のプロペラに絡みついて航行不能にすることを狙ったもの。

注9.これらの「武器」は、法定備品として船舶に積まれているものであるが、今回使用されたのはおそらく二種類で、信号用火箭(かせん)及び救命索発射ロケットである。 火箭は、本来、救難の合図のために使用されるもので、真上に打ち上げると200mほどの高さまで到達し、明るい炎を3秒程度発光させながら落下してくる。 救命索発射ロケットは、本来、遭難船などに接近できない場合に、救命索や連絡索を受け渡すために使用される。 一般的なものでも、ランチャーから発射された数百グラムの飛翔体が、ロケット推進により水平距離で200m以上飛翔し、人間に命中した場合には殺傷能力を有すると思われる。


これらの写真及び動画は、以下の(財)日本鯨類研究所ウェブサイトからも入手可能です。http://www.icrwhale.org/gpandseaJapane.html


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