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第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)
−2007/08年(第三次)調査航海の調査結果について−


平成20年4月14日
財団法人 日本鯨類研究所


1.JARPAIIの概要

日本政府は、南極海のクロミンククジラ資源に関する科学的情報を収集して、鯨類の持続的利用の達成に資することを目的として南極海鯨類捕獲調査(JARPA)の実施を決定した。 財団法人日本鯨類研究所は、政府からの調査実施許可と財政支援を受けて、1987/88年から2004/05年に至る18年間の長期にわたって調査を実施し、多大な成果をあげた。
JARPAで得られたデータの解析から、南極海生態系がナンキョクオキアミを鍵種とする単純な構造をもち、オキアミを巡ってヒゲクジラ類の間で競合関係があること、 さらに、初期の商業捕鯨による乱獲で低水準にあったザトウクジラ、ナガスクジラ等の資源も、商業捕鯨モラトリアム導入以前から実施されて来た資源保護により、近年では目覚ましい回復傾向を示していることも示唆された。 これらの調査結果は、いずれも、ヒゲクジラ類資源を適切に管理していくためには、単一鯨種ごとに資源動態やその将来予測を行うのではなく、南極海生態系の構成員としての鯨類の位置付けを明らかにし、 鯨種間関係も併せて総合的に考える必要のあることを示している。
この結果を受けて、我が国は鯨類を含む南極海生態系のモニタリングを行うとともに、適切な鯨類資源管理方法の構築に必要な科学的情報を得るために、 第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を実施することを決定した。財団法人日本鯨類研究所は、日本政府からの調査実施許可及び財政支援を受けて、JARPAに引き続き2005/06年から本調査を開始した。
JARPAIIの調査目的は、(1) 南極海生態系のモニタリング、(2) 鯨種間競合モデルの構築、(3) 系群構造の時空間的変動の解明、(4) クロミンククジラ資源の管理方式の改善である。 JARPAIIは、致死的調査と非致死的調査手法を組み合わせた、南極海における世界最大の総合的な鯨類調査である。

2.今次調査の概要

本年度の調査は、一昨年、昨年に引き続き、暴力的な妨害団体であるグリーンピース及びシーシェパードによる執拗かつ危険な妨害活動を長期間にわたって受け、 延べ31日間にわたって調査を中断せざるを得なかった。 また豪州政府が派遣した監視船による危険な追航が22日間続けられ、調査船団の行動が制約された。
なお、調査母船日新丸が入港する大井水産埠頭は、国際条約(SOLAS条約)に基づく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」により、国際埠頭施設の制限区域に指定されているため、 関係者以外の立ち入りが禁止されており、マスコミによる随時の取材が認められていない。 そのため、15日(火)午後に農林水産省にて、調査団長、船長、水産庁漁業指導監督官等による共同記者会見を実施する予定である。

(1)調査海域:

南極海第III区東側海域、第IV区全域並びに第V区西側海域(南緯60度以南、東経35度〜東経165度)。 捕獲調査は南緯62度以南の海域で実施した。 なお、妨害活動回避のため、調査日程に不足が生じ、当初予定されていたV区東側海域(東経165度〜175度)の調査が行えなかった他、IV区東側及びV区西側海域における目視採集船の調査活動が大幅に制限された。


図1.2007/08JARPAIIの調査海域。
図中北側の線(赤)は南北海域境界線、南側の線(青)は氷縁を示す。

調査海域図
(2)航海日数及び調査日数:

航海日数: 平成19年11月18日(出港) 〜平成20年4月15日(入港)*  150日間
調査日数: 平成19年12月15日(調査開始) 〜平成20年3月 24日(調査終了) 101日間
*母船の出入港日。

(3)調査員:

調査団長 石川 創 ((財)日本鯨類研究所 調査部次長) 他25名

(4)調査船と乗組員数(出港時、監督官、海上保安官、調査員を含む):

調査母船 日新丸  (8,044トン 小川 知之船長 以下143名)
目視採集船 勇新丸 (720トン   竹下湖二船長 以下18名)
目視採集船 第二勇新丸 (747トン 佐々木安昭船長 以下18名)
目視採集船 第三勇新丸 (742トン 三浦敏行船長 以下18名)
目視専門船 第二共新丸 (372トン 小宮博幸船長 以下22名)
目視専門船 海幸丸 (860.25トン 新屋敷芳徳船長 以下22名)
合計 241名

(5)総探索距離(仮集計):

14,575.4海里

(6)鯨種の発見数(一次及び二次発見の合計:仮集計):

クロミンククジラ 926群 1,961頭
シロナガスクジラ 49群 92頭
ナガスクジラ 60群 172頭
イワシクジラ 2群 2頭
ザトウクジラ 1,433群 2,753頭
ミナミセミクジラ  75群 101頭
マッコウクジラ 295群 295頭

(7)標本採集数:

クロミンククジラ 551頭 (オス:273頭,メス:278頭)

(8)自然標識撮影(個体識別用写真撮影):

シロナガスクジラ:23頭、ザトウクジラ:16頭、ミナミセミクジラ:37頭

(9)バイオプシー採取数 :

シロナガスクジラ:5頭、ナガスクジラ:3頭、ザトウクジラ:5頭、ミナミセミクジラ:18頭、 マッコウクジラ:1頭

(10)海洋観測:

CTD: 90点、XCTD: 98点、EPCS: 87日隻分

(11)餌生物調査:

計量魚探: 延べ171日分
アイザックキット中層トロール網(IKMT)による採集: 36回
ノルパック(NORPAC)ネットによる採集: 37回

(12)調査結果要約:

・クロミンククジラの発見は、ほぼ同じ海域を調査した一昨年の結果(1,848群4,917頭を発見)と比較して半分以下となった。 これは単純にクロミンククジラの資源が減少したのではなく、調査海域にザトウクジラが広く多数分布するようになり、これまで分布が優勢であったクロミンククジラが調査海域の南側のパックアイス付近に偏在するという 近年の分布傾向を反映したものと考えられる。

図2. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるクロミンククジラの発見位置
クロミンククジラの発見位置

・今年は調査海域での氷の変動が、例年よりも複雑であった。 通常、クロミンククジラが集まるIV区西側のプリッツ湾ではポリニア(海氷の一部が開いた開氷域)を形成していたため内部の調査ができなかったが、 その東方のデイビス海(89°E〜95°E)では、パックアイス内に形成されたポリニアの僅かな隙間をぬって進入し、多数のクロミンククジラを確認及び捕獲した結果、次のような貴重な情報を得た(図5参照)。
・捕獲調査の結果、ポリニアの内部には資源の再生産に重要な役割をもつクロミンククジラの妊娠雌個体が多く入り込んでおり、性状態による棲み分けが認められた。 このことは、調査船が進入できない複雑な氷縁の中にも、多くのクロミンククジラが入り込んでいる可能性が高いことを示唆しているのと同時に、クロミンククジラの資源状態を把握するための調査として、 性状態による棲み分けを踏まえた広範囲かつ詳細な海域を調査することが必要であることを示唆した。
・調査期間中にクロミンククジラ551頭(オス:273頭,メス:278頭)を捕獲した。 成熟率は、雄が71.4%、雌が65.5%であり、成熟雌に占める妊娠個体の割合は92.3%と例年同様に高く、クロミンククジラの再生産に大きな問題が生じていないことを示す一つの証拠と考えることが出きる。 今年度の調査では、未成熟個体(体長範囲4.82m〜8.82m)を174個体採集したが、胃内容物の結果からミルクが含まれている個体はいないため、過去の調査結果と同様に、離乳前の個体は本調査海域に分布していないことが示唆された。 海域別では、III区東側では南北海域共に成熟雄が優勢であったのに対し、IV区西側北部では未成熟の雌雄が優勢であった。 IV区東側の南部海域では成熟雄が優勢であり、パックアイスの奥にポリニアが発達したIV区西側やV区西側の南部海域では、成熟雌が優勢であった(図5)。
・本調査海域では、JARPAによりクロミンククジラの2系群の存在が明らかになっているが、その境界については必ずしも合意されていない。 今回得られた標本から、2系群の境界付近における混合率や、境界の経年的な変化の検出など、最新の情報に基づく系群構造解明が期待される。
・ザトウクジラの発見数の多さは他の鯨種を圧倒しており、図3でも示したように調査海域のほぼ全域に分布していた。 過去の調査結果と同様に、今次調査でも改めて本種の資源の順調な回復ぶりが示された。 今後はザトウクジラとクロミンククジラとの間の餌をめぐる関係や分布の変化要因を調査していくことで、鯨類の資源動態の変動メカニズムを明らかにすることが可能となる。 ザトウクジラは特にIV区西側海域(東経70度〜100度)で発見が多く、目視専門船の発見密度(単位努力量あたりの発見群数)はクロミンククジラの7倍以上であった。 本年度は水産庁の指示により、本種の捕獲は実施しなかった。

図3. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるザトウクジラの発見位置

ザトウクジラの発見位置


・ナガスクジラは、一昨年の調査結果(224群936頭を発見)と比較して、極めて発見が乏しかった。 特にナガスクジラを捕獲対象とした目視採集船は、妨害による調査日数の不足に加えて、発見数が少なく、最後まで捕獲の機会が得られなかった。 目視採集船よりも北側(南緯60度)まで調査を行った目視専門船での発見数が多かったことから、例年と比べてナガスクジラの回遊分布が南まで広がらなかったことが考えられる。
・一方、シロナガスクジラやミナミセミクジラ等の希少種は、過去の調査と比較して数多く発見された。 シロナガスクジラはIII区東側の南部海域で、ミナミセミクジラはIV区東側の南部海域で集中して発見され、非致死的調査である個体識別写真やバイオプシー標本を収集した。

図4. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるナガスクジラ(mark)、 シロナガスクジラ(mark)、ミナミセミクジラ(mark)およびマッコウクジラ(mark)の発見位置 発見位置


・目視調査、海洋観測調査、餌生物調査等の結果は、捕獲した鯨体からの各種分析用標本とともに、南極海の鯨類資源や南極海生態系の継続的なモニタリングに貴重なデータをもたらした。 餌生物調査では、計量魚探及びネットサンプリングを実施しており、捕獲調査によって採集した鯨体の胃内容物と餌生物の組成や大きさを比較することで、クジラが利用している餌生物が生態系の中でどのような役割を果たしているのかを今後明らかにしていくことが期待される。 また、餌生物調査で推定したオキアミなどの資源量と捕獲したクジラの胃内容物重量などを比較することで、クジラがどのくらいの捕食インパクトを南極海生態系に与えているかを推定することが可能になるなど、将来的な予測も含んだ南極海生態系の研究を行う上で、今回得られたデータが大きく貢献することが期待される。
・捕獲されたすべての鯨から、数多くのデータや標本が得られた。 これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後様々な分野の研究担当者に引き渡されて分析及び解析が行われ、その成果はIWCや各分野の学会などで公表される(表1)。

表1.2007/08JARPAにおけるクロミンククジラの生物調査項目要約


生物調査項目要約

図5.デイビス海におけるクロミンククジラとザトウクジラの棲み分け。クロミンクジラは性成熟度別に示した。mark: 成熟雄、 mark:未成熟雄、mark:成熟雌、mark: 未成熟雌、mark:性成熟度不明(目視のみ)。 パックアイスによりポリニア状となったデイビス海では成熟した妊娠雌のクロミンククジラが集中し、入口付近では未成熟個体や成熟雄のクロミンククジラが見られるなど棲み分けが認められ、 また、このポリニアの北側では多数のザトウクジラ(mark)で占められていた。

棲み分け


2007/08JARPAIIに参加した調査船

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左:調査母船 日新丸、中:目視採集船 勇新丸、右:目視採集船 第二勇新丸

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左:目視採集船 第三勇新丸、中:目視専門船 第二共新丸、右:目視専門船 海幸丸


(参考)

国際捕鯨取締条約第8条(抜粋)

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる

2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。


第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)−2007/08年(第三次)調査航海の調査結果について− PDF形式


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