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2001年北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)航海を終えて

平成13年8月7日
財団法人 日本鯨類研究所


1.はじめに

鯨類による海洋生物資源の捕食量は、世界的にみると海面漁業生産量の3〜5倍になると推定されている。 北西太平洋に分布するミンククジラの系群構造を明らかにすることを主目的として1994年以来実施してきた北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)は、繁殖集団に係わる情報を集めて所期の目標をほぼ達成したが、同時にオキアミやマイワシを餌としていると考えられてきたミンククジラが、近年太平洋側ではサンマやカタクチイワシなどを主食にしていることを明らかにした。また近年、棒受網漁で集めたサンマがミンククジラに横取りされるなどの漁業被害報告も増加傾向にある。こうしたことから、日本周辺海域で鯨類によって捕食される餌生物の種類と、その量を正確に推定できるような調査の実施が望まれるようになった。 昨年度から予備調査として開始された第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)は、日本の太平洋側200海里内の海域を中心にして、鯨類が消費している餌生物の種類を明らかにし、その捕食量や餌生物に対する嗜好性といった鯨の摂餌生態を解明して、鯨とその餌生物との相互関係を基にした生態系モデルを構築し、将来の複数種一括管理に有用な情報を提供して、その実現に資することを最終目標として立案されたものである。 この調査計画では、これまで調査対象としてきたミンククジラに加えて、新たにニタリクジラとマッコウクジラの採集が計画された。その理由は、この両種がミンククジラより大型で摂餌量が多い上に、北西太平洋に生息する個体数もミンククジラと同数並びに4倍(ミンククジラ 25,000、ニタリクジラ 23,000、マッコウクジラ 102,000)と推定されており、生態系への影響もミンククジラよりも遥かに大きいと考えられるからである。ニタリクジラは従来からオキアミよりも魚類を好んで食べると報告されている種である。マッコウクジラはイカ、特に深海性のイカを食べていることが知られているが、一部には漁業対象とされているアカイカも消費していることから、マッコウクジラが食べている餌生物を明らかにし、またその餌生物の食性も含めて再検討する必要がある。マッコウクジラが大食漢で、しかも生息数が多いだけに、マッコウクジラの消費する餌生物にこれらの有用資源が含まれていた場合には、漁業に与える影響も無視できなくなる可能性が大きいからである。


2.調査内容

JARPNII調査は、上記の目的の他に、1994年以来6年間実施してきたJARPN調査で、未解明となっている課題、即ち"北西太平洋に分布するミンククジラは、日本の主張通りひとつの系統群と思われるが、数年に1度の割合で調査の東端付近の海域に別の系統群が来遊している可能性"を継続して調査することになった。 この東端海域(9海区)の調査を除き、JARPNII調査では、どんな種類の鯨が、どんな餌をどの位食べているのか、餌の取り方に選択性があるか、あるいは鯨に捕食されている魚やイカは、どんな生物を食べているのかを重点的に調べることになっている。従って、採集した鯨の胃や腸の内容物だけでなく、その鯨が泳いでいた海域にいた魚の種類と量を調べるため、計量魚探という特別な魚群探知機を搭載した船と、中層トロール網を曳く船の各々一隻が、鯨を採集する3隻の船の他に投入された。 海の中に生息する生物の種類と、鯨の胃内容物を比較することで、その鯨がどのような種類の魚を好んで食べるかが解り、海の中に生息する魚の量と、その海域の鯨の数と各々が食べた量を調べると、鯨が餌としている魚の資源にどの程度の影響を与えているかが解ってくる。

今年度は昨年同様予備調査として、また8月から9月に実施した昨年度の調査を補充する目的から、5月から7月に実施したが、


(1) 7海区では、ミンククジラは我が国の太平洋沿岸域と水温20℃以下の冷たい北側の海域に分布し、一方、ニタリクジラは調査海域の南端から黒潮の張り出し部にかけて分布しており、明瞭な棲み分けが認められた。

(2) この海区における餌生物は、ミンククジラが昨年と同様に大型のカタクチイワシを捕食していたのに対して、5、6月に採集したニタリクジラはオキアミを捕食しており、昨年8月のカタクチイワシと異なっていた。このため、7月にも調査を行ったところ、オキアミに加えて小型のカタクチイワシが認められ、ニタリクジラの食性に季節変化のあることが明らかになった。

(3) また、7海区中央部の移行帯では、極めて近接したところからミンククジラとニタリクジラが発見されたが、その餌生物は、ミンククジラが大型のカタクチイワシで、ニタリクジラがオキアミ類と明確に異なり、両種は分布や餌生物において、同一生態系の時空間を巧みに使い分けている可能性が示唆された。

(4) 7海区では、特に道東の沿岸域においてミンククジラは、これまでと同様に、多数のスケトウダラを捕食しているのは今調査からも明らかとなり、この海域においてスケトウダラがミンククジラの主要餌生物の一つを構成していることが明らかとなった。

(5) 9海区のミンククジラは、これまでのJARPN調査と同様に、主にサンマを捕食しており、昨年9月に実施した結果(カタクチイワシ)とは異なっていた。さらに、8海区のミンククジラはイカ類も捕食しており、これら沖合域においても本種の食性がオキアミやサンマ及びイカ類など多様且つ広い適応性を有していることが明確となった。

(6) マッコウクジラの胃内容物からは、昨年と同様、深海性のイカ類や魚類が認められた。昨年の胃内容物の解析からも、スケトウダラやソコダラ類の耳石が確認されたことから、本種の食性は深海性イカ類だけではなく、魚類も利用していることが示された。

(7) 9海区では、昨年に引き続き、シロナガスクジラなど多数の大型鯨類が発見されており、特に今年はイワシクジラの発見が多数を占めた。

(8) 7海区では、大きな集団を含む多数のマッコウクジラの群れが観察され、資源の豊富さが示唆された。


といった貴重な情報を得ることに成功した。

今調査において、大変遺憾なことに、調査期間中にイワシクジラ1頭をニタリクジラと誤認捕獲するとの事態が発生した。このため、採集船乗組員を日新丸に転乗させ、誤認の原因究明を行うとともに、両種の差異についての実地研修を実施して、再発防止に対応した。また、当該鯨の骨格標本の採集を含め、出来る限り多くの情報を収集した。


3. 調査概要

(1)航海日数

平成13年5月10日(出港)〜 平成13年8月7日(入港) 90日間

(2)調査日数

平成13年5月14日(開始)〜 平成13年8月3日(終了) 82日間

(3)船団構成

調査団長 藤瀬 良弘 ((財)日本鯨類研究所 研究部部長)
副調査団長 重宗 弘久 ((財)日本鯨類研究所)
副調査団長 遠山 大介 (日新丸船長)
水産庁監督官 鍋島三千年(水産庁資源管理部遠洋課捕鯨班)
水産庁監督官 譜久山 修 (水産庁資源管理部遠洋課捕鯨班)
調査員 (財)日本鯨類研究所 田村 力 ・ 水産庁遠洋水産研究所 渡邊 光 以下16名

(4)調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船     日新丸(7,575トン) 遠山 大介 船長 以下113名
目視採集船    勇新丸 ( 720トン) 松坂 潔 船長 以下18名
目視採集船   第1京丸( 812トン) 亀井 秀春 船長 以下23名
目視採集船   第25利丸(740トン) 広瀬 喜代治 船長 以下23名
目視専門船    第2共新丸( 368トン) 成田 英憲 船長 以下20名
トロール調査船 とりしま( 426トン) 嶌田 佐 船長 以下14名

(5)総探索距離(目視採集船3隻の合計)

15,097,8マイル

(6)主たる鯨類の発見数(目視採集船 3隻の合計、仮集計)

ミンククジラ 135群 138頭
ニタリクジラ 69群 83頭
マッコウクジラ 340群 996頭
シロナガスクジラ 23群 31頭
ナガスクジラ 15群 23頭
イワシクジラ 110群 149頭
ザトウクジラ 16群 20頭
セミクジラ 2群 3頭
ツチクジラ 5群 19頭

(7)標本採集頭数

ミンククジラ 100頭
ニタリクジラ 50頭
マッコウクジラ 8頭


2001JARPNII−生態系調査での調査体制

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