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2006年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)
−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて−

平成18年8月21日
財団法人 日本鯨類研究所


1.経緯

北西太平洋とオホーツク海を回遊するミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系群)の資源量は、国際捕鯨委員会(IWC)によって、25,000頭と推定されています。 持続的利用が可能な捕獲枠を算出するための改訂管理方式(RMP)をこのミンククジラ資源に適用する際に必要となる系群情報の収集を主目的として、当研究所は1994年から1999年まで北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)を実施しました。 この調査によって、日本列島を挟んだ太平洋側と日本海側のミンククジラが各々独立した繁殖活動を行っている集団(系群)であることが明らかになりました。 また、太平洋側では同一系群であっても、未成熟個体は沿岸に、成熟雄は沖合に、そして、成熟雌は北方のオホーツク海などに棲み別けしている実態が明らかになりました。 さらに、この調査では、ミンククジラが日本漁業の主要漁獲対象種であるサンマやカタクチイワシ、スケトウダラ、スルメイカ等を大量に捕食していることが明らかになり、また、鯨類の分布と漁場との重なりから、鯨類が漁業活動と競合関係にあることが強く示唆されました。

このような調査結果から、鯨類を含む水産資源の包括的管理のためには、鯨類及びその餌生物を含めた総合的な調査が必要であることが認識され、JARPNを発展させた第二期調査(JARPNII:通称 ジャルパン・ツー)が計画され、2000年から実施されています。

このJARPNIIの最優先課題は、鯨類が消費する餌生物の種類や量、鯨類の餌生物に対する嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の水産資源の包括的管理に貢献することです。

そのため、捕獲調査対象鯨種を、従来のミンククジラ(体長8m、資源量25,000頭)に加えて、ミンククジラより大型で総生物量も大きく、その捕食量が生態系に与える影響が大きいと推定されるニタリクジラ(体長13m、資源量25,000頭)やマッコウクジラ(体長雄15m・雌11m、資源量102,000頭)、更にミンククジラの資源量を超えるまでに回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長14m、資源量69,000頭)にまで拡げました。 また、鯨類が利用している餌生物の分布や存在量を推定するため、計量魚探や中層トロールを装備した調査船を用いて、鯨の捕獲調査と併行して餌環境調査を行っております。

JARPNIIでは、こうした鯨類の摂餌生態調査の他に、鯨類や海洋生態系への化学汚染物資の影響の把握や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいます。

今回入港する日新丸船団は、JARPNIIの沖合域調査を担当していますが、この他、沿岸域の捕獲調査(春季に三陸沖、秋季に釧路沖)がJARPNII計画の下で実施されており、主に小型捕鯨船が担当しています。

我が国が実施している捕獲調査は、国際捕鯨取締条約(ICRW)の第8条(別記参照)によって締約国の権利として認められている正当な科学調査です。 また、漁業資源の適切な管理の実現に向けた鯨類調査の実施の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く支持されています。


2.調査計画概要

JARPNIIは、国際捕鯨取締条約に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を経て、2002年より本格調査を実施しています。 調査の概要は以下のとおりです。


(1)調査目的:

(1) 鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明

(2) 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握

(3) 鯨類の系群構造の解明


(2)調査海域:

北緯35度以北、日本沿岸から東経170度にかけた北西太平洋(IWC管理海区7、8、及び9海区)の一部海域。

調査海域図
図1.JARPNIIの調査海域。
2006年の調査では、7海区、8海区及び9海区の全域で調査を実施しました。

(3)標本採集頭数

本調査における予定標本数は次の通りです。
ミンククジラ 100頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ 10頭

この他、同計画のもとで実施される沿岸域調査ではミンククジラが120頭捕獲されています(三陸沖、釧路沖で各60頭の計120頭)。


3.結果概要

(1) 本年度の調査では、例年に比べて台風の接近も少なく、比較的良好な天候に恵まれ、ミンククジラやイワシクジラをはじめとして、シロナガスクジラやナガスクジラなど多種にわたる鯨類を数多く発見して、調査を順調に進めることができ、ほぼ計画通りの標本数を得て終了しました。

(2) 本年度の調査では、7、8海区及び9海区の全海域にわたって調査を実施しました。その結果、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。


1. これまでの調査では、ミンククジラは日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌生物種を利用していることを明らかにしてきました。 また、昨年のように、初夏であってもカタクチイワシの捕食が認められないなど、食性にも年変動のあることが示されました。 本年度調査では、ミンククジラは、通常の年に認められるように、初夏に主としてカタクチイワシ、また盛夏にサンマを捕食しており、これまでに把握した年変動の範囲内にあることが明らかになりました。 JARPNII調査では、鯨類の餌環境についても同時期に調査を行っており、今年は計量魚探を装備した第二共新丸が、餌生物の分布や存在量の調査を行っています。 今後のクジラと餌生物の両面からの解析によって、ミンククジラの摂餌生態が明らかになるものと考えられます。

2. イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることをこれまでの調査から明らかにしてきました。 今年のイワシクジラの特徴としてカタクチイワシが主要な餌生物であったことがあげられます。 例えば、6月〜7月に調査した沖合南側(9海区南側)では、本種は主にカタクチイワシを捕食していましたが、昨年の調査ではカイアシ類やオキアミ類が主要餌生物でした。 また、8月に調査した沖合北側(9海区北側)では、カイアシ類やオキアミ類、サンマ、カタクチイワシが主要な餌生物として観察されましたが、昨年はこれらのうち、カタクチイワシは主要な餌生物として観察されませんでした。 このことは、イワシクジラがミンククジラと同様に時期や海域によって異なる餌生物を利用していることを示すとともに、その食性に年変動がある可能性を示しています。

3. ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミとカタクチイワシを捕食しています。 またその分布には年変動のあることをこれまでの調査から明らかにしてきました。 今年は、通常の年と同様に調査海域の東西に広く分布しており、昨年のように西側に偏った分布は認められませんでした。 また、今年の調査では、これまで情報が少なかった盛夏の沖合側(9海区)において同種の採集を行い、新たな情報の収集を行いました。今年の調査から、ニタリクジラがオキアミ類やカタクチイワシを主に捕食するのに加えて、中深層性魚類のヤベウキエソも利用していることが確認されました。 このヤベウキエソは、商業捕鯨時代にもニタリクジラの餌生物として記録されていたものですが、捕獲調査ではこれまでほとんど観察されていない魚種です。

4.  マッコウクジラは、これまでの調査で情報の少なかった沖合北側(8及び9海区北側)での標本の採集に努め、6個体を調査しました。 その結果、これらの個体は、ヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食しており、また沖合においても、中深層性魚類を利用していることなど、マッコウクジラの食性に関する最新の情報が蓄積されました。

5. 本調査では、鯨体の捕獲調査のみならず、衛星標識やデータロガーの装着などの技術を用いた鯨類の生態に関する情報の収集も同様に行っています。 7月の調査中に、ニタリクジラ3頭及びイワシクジラ1頭に対して衛星標識の装着を試み、その内ニタリクジラ1個体について同標識の装着と同標識から発信される位置情報を衛星を介して入手することに成功し、3週間にわたって位置情報を収集しました。

6. シロナガスクジラやナガスクジラなどの大型のヒゲクジラ類も、沖合で数多くの発見があり、自然標識撮影実験やバイオプシー採集実験を実施して、画像や組織標本の収集を行いました。


発見位置

図2.2006JARPNIIの調査コースと目視採集船が捕獲したミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、マッコウクジラの発見位置
:ミンククジラ、:イワシクジラ、:ニタリクジラ、:マッコウクジラ)。

本年度の調査は、7海区、8海区及び9海区の全域で実施され、北緯35度から北緯51度までの広い海域で多くの鯨類の発見がありました。



(参考)

国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。
2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。



2006年JARPNII沖合域鯨類捕獲調査の結果概要


1.期間

航海期間:  平成18年5月23日(出港)〜平成18年8月21日(入港) 91日間
調査期間:  平成18年5月24日(開始)〜平成18年8月16日(終了) 85日間


2.船団構成
1)調査員・監督官

調査団長 田村 力 (財団法人日本鯨類研究所 研究部生態系研究室長)
調査員 (財)日本鯨類研究所 田村 力  以下13名
水産庁監督官 末次昂之 (水産庁遠洋課)

2)調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船 日 新 丸 ( 8,030トン  小川 知之 船長以下126名)
目視採集船 第二勇新丸 (  747トン  松坂  潔 船長以下 20名)
目視採集船 勇 新 丸 (  720トン  廣瀬 喜代治 船長以下 21名)
目視採集船 第一京丸 (  812.08トン 三浦 敏行  船長以下 22名)
目視専門船 第二共新丸 (  372トン  竹下 湖二 船長以下 22名)

3.総探索距離

12,245.5海里 (目視採集船3隻の合計、仮集計)

4.主たる鯨類の発見数(目視採集船3隻及び調査母船の合計、 仮集計)

ミンククジラ 一次発見 81群83頭、二次発見 52群53頭
イワシクジラ 一次発見 146群231頭、二次発見 65群105頭
ニタリクジラ 一次発見 102群129頭、二次発見 32群44頭
マッコウクジラ     一次発見 143群270頭、二次発見 35群63頭
シロナガスクジラ 一次発見 23群30頭、二次発見9群12頭
ナガスクジラ 一次発見 63群84頭、二次発見15群16頭
ザトウクジラ 一次発見 47群61頭、二次発見15群17頭
セミクジラ 一次発見  9群13頭、 二次発見1群1頭

5.標本採集頭数

ミンククジラ 100頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ   6頭

6.実施機関

財団法人 日本鯨類研究所


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