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第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の第一次調査の出港について

平成17年11月7日
財団法人 日本鯨類研究所

1.JARPAIIの概要

(1)経緯

南極海は鯨類を含む生物資源の宝庫である。 南極海での商業捕鯨は1904年に開始されたが、その過度な捕獲によって、シロナガスクジラなど主要な大型鯨類資源が減少した。 1980年代には国際捕鯨委員会(IWC)により商業捕鯨モラトリアムが導入されたが、当時より、クロミンククジラ資源は高い水準にあり、また、現在ではナガスクジラ、ザトウクジラ等その他の鯨類も資源を回復しつつあることが判明してきている。

しかしながら、モラトリアム導入当時は、クロミンククジラ資源についてすら科学的知見が充分ではなく、このことがモラトリアム導入の根拠とされてしまったことから、日本政府は、南極海のクロミンククジラ資源に関する科学的情報を収集し、鯨類の持続的利用の達成に資することを目的として南極海鯨類捕獲調査(JARPA)の実施を決定した。 財団法人日本鯨類研究所は政府からの調査実施許可と財政支援を受けて、JARPAを1987/88年から開始し、2年間の予備調査を含めて18年間に及ぶ長期調査計画を実施してきたが、JARPAは本年の春に多大な成果を持って終了した。

JARPAから得られた結果によって、南極海のクロミンククジラが北半球のミンククジラと別種であることが明らかにされたほか、今年1月に開催されたレビュー会合においても詳細な検討が行われ、主目的とした南極海のクロミンククジラの自然死亡係数や性成熟年齢等の生物学的特性値やそれらの年変化が推定され、また、系群構造についても2つの系群が調査海域に存在していることが明らかにされるなど学術的な貢献を行った。 また、クロミンククジラ体内に蓄積される重金属やPCBなどの汚染物質は極めて少ないことが明らかにされ、南極海が地球上で最も汚染されていないクリーンな海域の一つであることが判明した。 このように所期の目的に沿った多くの成果が得られ、クロミンククジラ資源の合理的な管理に大きく貢献する情報が得られた。

さらに、JARPAデータから、南極海生態系はナンキョクオキアミを鍵種とする単純な構造をもっており、この生態系の中でオキアミを巡ってヒゲクジラ類の間で競合のあることが示唆された。 南極海生態系におけるヒゲクジラ類の資源動態を把握して、資源の将来予測を行うためには、個々の鯨種の資源解析のみならず、生態系の構成員としての個々の鯨種の位置づけ、すなわち鯨種間関係も併せて考慮する必要のあることが指摘された。

これらの検討結果に基づき、日本政府は鯨類を含む南極海生態系のモニタリングを行って、適切な鯨類資源管理の構築に必要な科学的情報を提供するため、致死的および非致死的手法の双方を含む総合的な調査として第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を策定した。本調査は、引き続き、財団法人日本鯨類研究所が政府からの調査実施許可及び財政支援を受けて2005/06年から実施する。

JARPAIIでは、従来のクロミンククジラに加えて、より大型のナガスクジラやザトウクジラも捕獲調査の対象となっている。 ただし、当初2年間(すなわち、2005/06年と2006/07年)は実行可能性(フィジビリティー)調査として、クロミンククジラとナガスクジラのみを対象として、拡大された調査海域における目視調査の方法、採集数及び対象鯨種の増加に対応した採集方法等の実行可能性と妥当性を検証することにしている。 また大型鯨の捕獲や解剖及び生物調査などの方法に関する実行性も併せて検証することとしている。

また、JARPAIIでは、目視専門船を1隻増やして2隻とし、調査海域も拡大して目視調査を充実させることとしている。


(2)目的

JARPAIIの主たる目的は、(1) 南極海生態系のモニタリング、(2) 鯨種間競合モデルの構築、(3) 系群構造の時空間的変動の解明、(4) クロミンククジラ資源の管理方式の改善である。


2.今次調査の概要

調査期間:

2005年11月8日〜2006年4月中旬(予定)

調査海域:

南極海第III区東側海域、第IV区全域並びに第V区西側海域及び東側海域の一部(南緯60度以南、東経35度〜東経175度)

調査員:

調査団長 西脇 茂利 ((財)日本鯨類研究所 調査部長)
(財)日本鯨類研究所より西脇団長他16名が参加

調査船と乗組員数(監督官、調査員を含む):

調査母船 日新丸  (8,030トン 遠山大介船長 以下 149名)
目視採集船 第二勇新丸 (747トン  松坂潔船長 以下  19名)
目視採集船 勇新丸 (720トン   三浦敏行船長 以下 19名)
目視採集船 第一京丸  (812.08トン 廣瀬喜代治船長 以下 22名)
目視専門船 第二共新丸 (372トン  竹下湖二船長 以下  21名)
目視専門船 海幸丸 (860.25トン  南淨邦船長 以下  22名)
合計 252名

標本採集計画数:

クロミンククジラ 850頭±10%
ナガスクジラ    10頭


3.調査項目

JARPAIIでは生態系のモニタリングを目的としており、従来のJARPAからの継続性を重視している。このため、資試料の種類は従来同様に多岐にわたっており、大別すると、以下の6項目に集約される。


(1) 目視調査データ(クロミンククジラを含む大型鯨類を中心にした鯨類を記録する)
鯨群の発見位置、鯨種、発見群頭数、発見時水温、目視努力量などを記録

(2) 鯨体からの生物学的データ及び標本の採取(クロミンククジラ及びナガスクジラ)
系群、年齢、成熟、繁殖、栄養、汚染物質、性ホルモン、寄生虫などの各分野にわたる生物学的資・試料の収集

(3) 気象、海洋及び環境調査データ
天候、海氷、水温(XCTD、XBT及びCTDによる水温、塩分の鉛直分布、EPCSによる表層生物環境モニタリングを含む)、海上漂流物の観測、及び計量魚探による餌生物の分布と密度の測定

(4) バイオプシー採集
主としてシロナガスクジラ、ミナミセミクジラ、コセミクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、クロミンククジラ、ザトウクジラ、マッコウクジラなどを対象として実施する。

(5) 写真撮影による自然標識記録
シロナガスクジラ、ミナミセミクジラ、ザトウクジラを対象として実施する。

(6) 衛星標識の装着
クロミンククジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ及びミナミセミクジラを対象として実施する。


2005/06JARPAIIの調査海域
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2005/2006JARPAIIに参加する調査船

左:調査母船 日新丸、右:目視採集船 第二勇新丸

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左:目視採集船 勇新丸、右:目視採集船 第一京丸

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目視専門船 第二共新丸

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この他、目視専門船の海幸丸が今次調査から参加する。


(参考) 国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。
2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。


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