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2005年北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)
−沖合域調査航海を終えて−

平成17年8月19日
財団法人 日本鯨類研究所


1.はじめに

北西太平洋とオホーツク海を回遊するミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系統群)の資源量は、国際捕鯨委員会(IWC)によって25,000頭と推定されています。 この資源に悪影響を及ぼすことなく捕獲枠を算出させる改訂管理方式(RMP)の適用に際して必要な系群構造に関する情報を得ることを主目的に、1994年から1999年までミンククジラ捕獲調査(JARPN)を実施しました。 このJARPNによって、日本列島を挟んだ太平洋側と日本海側のミンククジラは各々独立した繁殖活動を行っている集団(系統群)であることを証明したほか、同じ集団(オホーツク海・西太平洋系統群)に属していても、日本の沿岸と沖合並びにオホーツク海とで年齢や性によって棲み分けする傾向のあることを明らかにしました。

また、この調査から、ミンククジラが日本の漁業が対象としているサンマやカタクチイワシ、スケトウダラ等の魚種を主要な餌生物として捕食していることが判り、量的にも場所的にも漁業と競合している可能性の高いことが明らかになりました。 水産資源を包括的に管理するためには、これら鯨類を含めた資源調査の必要性が強く認識されるようになりました。

こうした経緯をふまえて、JARPNを第二段階へと発展させた第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)が2000年から開始され、2年間の予備調査の結果を受けて、2002年から本格調査が開始されました。 JARPN IIでは、最も優先される課題は、鯨類が餌として消費している生物の種類や量、それに嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明すると共に、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺海洋生物資源の複数種一括管理に貢献することにあります。

捕獲調査対象種として、従来のミンククジラ(体長平均8m、資源量25,000頭)に加えて、海洋生態系に及ぼす影響がミンククジラを凌ぐと推定されている、大型で資源量が多いニタリクジラ(体長平均13m、資源量25,000頭)やマッコウクジラ(体長平均雄15m・雌11m、資源量102,000頭)、更に急速に資源が回復してきていることが最近の調査から明らかになったイワシクジラ(体長平均14m、資源量69,000頭)も調査対象としました。 また、生息環境と比較するため、クジラの捕獲調査と併行して、計量魚探や表中層トロールによる餌生物調査を実施しております。

JARPN IIではこうした摂餌生態の解明の他にも、汚染物質が海洋生態系に及ぼしている影響の解明や、各鯨種の系群構造の解明にも引き続き取り組んでいくことにしております。 この科学目的のための捕獲調査は、国際捕鯨取締条約第8条によって締約国の権利として認められているものであります。 また、漁業資源の適切な管理を実現させるための鯨類調査の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く指摘されています。


2.JARPNII調査計画の概要

第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)は、国際捕鯨取締条約第8条(別記参照)に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を実施した後、2002年より本格調査を実施しています。


調査目的:

(1) 鯨類の摂餌生態、生態系における役割に関するデータの収集、

(2) 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響調査、

(3) 鯨類の系群構造の解明

調査海域:

北緯35度以北、日本沿岸から東経170度にかけた北西太平洋(7、8及び9海区)。 但し、オホーツク海並びに外国の200海里水域を除く。

目標標本数:

ミンククジラ 100頭*
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ 10頭

*:この他、本年は4月から5月に三陸沿岸で、また9月から10月にかけて道東沿岸でミンククジラを対象とした沿岸域調査が実施されることになっており、三陸沿岸については、既に終了しています(これらの標本数は各60頭)。


本年調査は、梅雨前線の停滞による荒天・雨天などの影響も受け、ガスのために視界が悪い日が多いなど天候には恵まれませんでしたが、多くの鯨類を発見して順調に調査を進め、予定された調査期間内にほぼ計画通りの標本数を得て終了することが出来ました。

今年の調査では、7、8海区及び9海区の全海域において調査を実施しました。 その結果、以下のような鯨類の摂餌生態に関する重要な情報を得ることが出来ました。


(1) ミンククジラは、海域や時期によって餌種を変え、沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌種を利用していることをこれまで明らかにしてきましたが、今年は、餌生物として重要な位置を占めていたカタクチイワシが、初夏の沖合域のミンククジラの胃からはほとんど認められず(主にオキアミを捕食)、盛夏になって同種の胃から、カタクチイワシがサンマとともに認められ、ミンククジラの餌生物としてのカタクチイワシの重要性が例年に比べて小さい傾向を示しました(沿岸域のミンククジラは主にスケトウダラを利用しており、これまでの調査結果と同様でした)。 JARPNII調査では俊鷹丸によって鯨類の餌生物の分布量調査も同時期(8月)に実施しており、今回観察されたミンククジラの食性変化については、餌生物の分布とその量とも併せて、今後検討していく予定にしています。

(2) イワシクジラは、調査海域の東側境界線である東経170度付近まで広く分布することが、今年の調査からも確認されました。 これらのイワシクジラは、6月〜7月に調査した9海区の南側海域(北緯40度以南)では、主にカイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンを捕食しており、一方、8月の9海区の北側(北緯40度以北)では、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンに加えて、サンマなどの魚類を捕食しており、イワシクジラも時期や海域によって異なる餌生物を利用していることが示されました。

(3) ニタリクジラは、5月〜6月の沖合域(8から9海区)では、南側海域(北緯38度以南)で発見されたものの、その発見数は少なく、胃からはこれまでと同様にオキアミを主に捕食していたものの、胃の充満度は例年に比べて低い傾向を示しました。 一方、7月の7海区の南側(北緯38度以南)では、比較的多数のニタリクジラが発見され、その胃からはオキアミとカタクチイワシが認められました。今年のニタリクジラの分布は西側に偏っている傾向を示しました。

(4) マッコウクジラは、これまでの調査で情報の少なかった沖合域(8、9海区)で主に採集を実施し、5頭を調査しました。 その結果、ヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食しており、また沖合でも中深層性魚類を利用するなど、マッコウクジラの食性に関する情報が蓄積されています。



(参考)国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。
2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。



2005年JARPNII日新丸調査船団による沖合域鯨類捕獲調査の結果概要


航海日数及び調査日数

航海日数: 平成17年5月13日(出港)〜平成17年8月19日(入港) 99日間
調査日数: 平成17年5月18日(開始)〜平成17年8月16日(終了) 91日間

船団構成

調査員・監督官

調査団長  田村 力 (財団法人日本鯨類研究所 研究部生態系研究室長)
水産庁監督官 末次昂之 (水産庁遠洋課)
調査員 (財)日本鯨類研究所 田村力以下11名、(独)水研センター 遠洋水産研究所 川原重幸以下2名、外国研究者2名

調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船 日新丸  (7,659トン 小川知之船長 以下126名)
目視採集船 第二勇新丸 (747トン 松坂潔船長 以下19名)
目視採集船 勇新丸 (720トン 三浦敏行船長 以下20名)
目視採集船 第一京丸  (812.08トン 廣瀬喜代治船長 以下23名)
目視専門船 第二共新丸 (372トン 竹下湖二船長 以下22名)
餌生物調査船 俊鷹丸 (887トン 小野田勝船長 以下28名)

総探索距離(目視採集船3隻の合計、仮集計)

12,697.8海里

主たる鯨類の発見数(目視採集船3隻及び調査母船の合計、仮集計)
ミンククジラ 一次発見 73群73頭
二次発見 36群37頭
イワシクジラ 一次発見 208群339頭
二次発見 102群163頭
ニタリクジラ 一次発見 57群78頭
二次発見 25群31頭
マッコウクジラ 一次発見 150群224頭
二次発見 35群112頭

標本採集頭数

ミンククジラ   100頭
イワシクジラ   100頭
ニタリクジラ   50頭
マッコウクジラ  5頭

実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター 遠洋水産研究所

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図1.JARPNIIの調査海域。

2005年北西太平洋鯨類捕獲調査ではこれらの海域のうち、7海区、8海区及び9海区の全域で調査を実施しました。


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図2.2005JARPNIIの調査コースと目視採集船が捕獲したミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、マッコウクジラの発見位置(:ミンククジラ、:イワシクジラ、:ニタリクジラ、:マッコウクジラ)。

赤枠内は餌生物調査を行った生態系共同調査海域。

注)本年度の調査は、7海区、8海区及び9海区の全域で実施され、北緯35度から北緯48度までの広い海域で発見がありました。

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