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2003年北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)
沖合域調査航海を終えて

平成15年8月13日
財団法人 日本鯨類研究所


1.はじめに

北西太平洋とオホーツク海を回遊するミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系統群)の資源量は、国際捕鯨委員会(IWC)によって25,000頭と推定されています。 この資源に悪影響を及ぼすことなく捕獲枠を算出させる改訂管理方式(RMP)の適用に際して必要な系群構造に関する情報を得ることを主目的に、1994年から1999年までミンククジラ捕獲調査(JARPN)を実施しました。

このJARPNによって、日本列島を挟んだ太平洋側と日本海側のミンククジラは各々独立した繁殖活動を行っている集団(系統群)であることを証明したほか、同じ集団(オホーツク海・西太平洋系統群)に属していても、日本の沿岸と沖合並びにオホーツク海とで年齢や性によって棲み分けする傾向のあることを明らかにしました。 更にこの集団が最近ではサンマやカタクチイワシ、スケトウダラ等を主として捕食しており、しかも量的にも場所的にも漁業と競合している可能性が高いことなどが明らかになったことから、水産資源の包括的管理のためには、鯨類を含めた資源調査の必要性が強く認識されるようになりました。

こうした経緯をふまえて、JARPNを第二段階へと発展させる調査として第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)が2000年から開始され、2年間の予備調査の結果を受けて、2002年から本格調査として開始されました。 JARPN IIで最も優先される課題は、鯨類が餌として消費している生物種の量や嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明すると共に、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の海洋生物資源の複数種一括管理に貢献することにあります。

その為に計量魚探や表中層トロールによる餌生物調査がクジラの捕獲調査と並行して実施されております。 捕獲調査対象種も従来のミンククジラ(体長平均8m、資源量25,000頭)に加えて、生物量が大きく、海洋生態系に及ぼす影響がミンククジラを凌ぐと推定されている、大型で資源量が多いニタリクジラ(体長平均13m、資源量23,000頭)やマッコウクジラ(体長平均雄15m・雌11m、資源量102,000頭)を、更に昨年からはミンククジラの資源量を超えるまでに資源が回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長平均14m、資源量28,400頭)に範囲を拡げました。

JARPNIIではこうした摂餌生態の解明の他に、汚染物質が海洋生態系に及ぼしている影響の解明や、それぞれの鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいくことにしております。 この科学目的のための捕獲調査は、国際捕鯨取締条約第8条によって締約国の権利として認められているものであります。 また、漁業資源の適切な管理を実現させるための鯨類調査の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く指摘されています。

JARPNIIではこうした摂餌生態の解明の他に、汚染物質が海洋生態系に及ぼしている影響の解明や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいくことにしております。 この科学目的のための捕獲調査は、国際捕鯨取締条約第8条によって締約国の権利として認められているものであります。 また、漁業資源の適切な管理を実現させるための鯨類調査の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く指摘されています。


2.調査内容


JARPNIIでは、鯨類の摂餌生態の理解を最優先課題としています。 すなわち、鯨類が餌として消費している生物の種類や消費量を詳細に調べることによって、鯨類が餌生物としている魚類などの資源にどの程度の影響を与えているかを見積もり、更に、海の中に生息する生物と鯨の胃内容物を比較することで、どの種類の鯨がどのような種類の生物を利用しているか(嗜好性)などを明らかにすることです。

最終的には鯨類と餌生物の食う・食われるの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺海洋生物資源の複数種一括管理に貢献することにあります。

その為に、計量魚探という特別な魚群探知機を搭載して表中層トロール網を曳くことの出来る船を、鯨を採集する3隻の船の他に投入して、鯨類を含む海洋生物の実態を明らかにすることを目指しております。 また、鯨類の目視調査を専門とする調査船も使用しております。

今年度は第2回目のJARPNII本格調査として沿岸域調査を4月10日から5月2日、沖合域調査を5月17日から8月8日にかけて実施しましたが、比較的天候にも恵まれて、両調査とも予定調査期間内に計画通りの標本数を得て終了することが出来ました。 また、以下のような鯨類の摂餌生態に関する重要な情報を得ることに成功しました。


(1) 本年4月上旬から5月上旬にかけて三陸沖で実施していた沿岸域鯨類捕獲調査では、ミンククジラは、主としてオキアミ類とイカナゴ類を捕食していることが明らかになりましたが、これと隣接する沖合側の海域では、主として12cmの大型のカタクチイワシを捕食していることが判り、ミンククジラは、春季の三陸沿岸から沖合にかけた海域においても多様な餌を利用していることが明らかになりました。

(2) 沖合域のミンククジラは、調査の早い時期(5から6月)にはカタクチイワシ、また遅い時期(7・8月)にはサンマを主要餌として利用しており、餌生物の季節変化が認められました。 さらに、沖合の9海区では、シマガツオやシロザケも利用していることが判明し、幅広い海域で、オキアミ類から、カタクチイワシやサンマといった表層性小型魚類のみならず、シマガツオやシロザケなどの中型の魚類までも利用する広範な食性を有していることが、さらに明確になりました。


photo ミンククジラ餌生物 サンマ(平均体長27cm)。食用となる大型サンマはミンククジラの主要な餌生物の一つです。(最高重量:106kg)
photo  ミンククジラ餌生物 シロサケとシマガツオ。ミンククジラは沖合域ではサケやシマガツオも捕食しています。


(3) ニタリクジラは、南側の海域において、沿岸から沖合まで(7海区、8海区及び9海区)に広く、また多数分布していることが、今年の調査からも確認され、昨年の結果(主に沖合域のみに分布)とは異なっていました。しかしながら、これらのニタリクジラも5月から6月には殆どがオキアミ類を捕食し、7月にはカタクチイワシを主に捕食するなど、昨年までの調査結果と同様に、季節によって餌生物の変化が観察されました。年変動については、餌生物の分布や海洋構造とも併せて今後検討していく予定です。


photo ニタリクジラ餌生物 カタクチイワシのシラス(平均体長29mm)。ニタリクジラは成魚だけでなくシラスも利用しています。
photo イワシクジラ餌生物 カタクチイワシ(体長12cm)。8海区の早い時期には最も多く捕食されていました(最高で500kg)。


(4) 多数のイワシクジラが、沖合(9海区)に分布することが今年の調査でも確認されました。 これらのイワシクジラからは、カイアシ類などの動物プランクトンからカタクチイワシなどの表層性魚類まで幅広く捕食していることが観察されましたが、ミンククジラや二タリクジラのような季節や海域での明確な食性の違いは認められませんでした。 しかしながら、同じ日に同じ海域で採集したイワシクジラでも、餌生物が異なるケースが観察されており、限られた海域の中でも条件によって多様な餌を利用していることが示唆されました。


(5) ミンククジラとイワシクジラはほぼ同じ海域で発見されましたが、両種で同一の餌生物を利用している場合があり、鯨類間での餌生物を巡る競合関係が存在する可能性が示唆されました。 その一方で、両種が異なる餌生物を利用している海域も観察されており、鯨種間の競合関係については、餌生物の分布量や鯨類の嗜好性の課題とともに、今後十分に検討していく必要があると考えられます。


(6) マッコウクジラは、今年の調査では沖合(8及び9海区)での採集も実施し、沿岸でも沖合でもヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食していることが判るなど、著しく不足しているマッコウクジラの食性に関する情報の蓄積を行うことが出来ました。


photo マッコウクジラ餌生物 ニュウドウイカ(外套長約100cm)。中深層性のイカ類を捕食していました。


3.調査の概要


(1) 航海日数

平成15年5月13日(出港)〜平成15年8月13日(入港) 93日間

(2) 調査日数

平成15年5月17日(開始)〜平成15年8月 8日(終了) 84日間

(3) 船団構成

調査員・監督官
調査団長   藤瀬 良弘 (財団法人日本鯨類研究所参事))
水産庁監督官 光冨喜一郎 (水産庁遠洋課捕鯨班)
水産庁監督官 畠中 繁宏 (水産庁管理課指導監督室)
水産庁監督官 森田 浩史 (水産庁沿岸沖合課)
調査員   (財)日本鯨類研究所 藤瀬良弘以下17名、水産庁遠洋水産研究所 川原重幸以下 2名

(4) 調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船   日新丸 (7,575トン 遠山 大介 船長 以下126名)
目視採集船  第二勇新丸  (747トン  松坂 潔 船長 以下17名)
目視採集船  勇新丸    (720トン  廣瀬喜代治船長 以下19名
目視採集船 第1京丸 (812.08トン 亀井秀春 船長 以下22名)
目視専門船 昭南丸   (712トン  南 浄邦 船長 以下20名)
目視専門船  第2共新丸 (372トン  三浦敏行 船長 以下21名)
餌生物調査船 俊鷹丸 (887トン  小野田 勝 船長 以下29名)

(5) 総探索距離(目視採集船3隻の合計)

12,123マイル

(6) 主たる鯨類の発見数(目視採集船3隻及び調査母船の合計、仮集計)

ミンククジラ 一次発見 74群 75頭、二次発見  48群 50頭
ニタリクジラ 一次発見 102群129頭、 二次発見  46群 64頭
イワシクジラ 一次発見  99群163頭、 二次発見  46群 73頭
マッコウクジラ 一次発見 211群615頭、 二次発見 113群 309頭

(7) 標本採集頭数

ミンククジラ   100頭
ニタリクジラ   50頭
イワシクジラ   50頭
マッコウクジラ  10頭

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