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2002年北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)航海を終えて

平成14年9月24日
財団法人 日本鯨類研究所


1.はじめに

北西太平洋とオホーツク海を回遊するミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系統群)の資源量は、国際捕鯨委員会(IWC)によって、25,000頭と推定されています。 この資源に悪影響を及ぼすことなく捕獲枠を算出させる改訂管理方式(RMP)の適用に際して必要な系群構造に関する情報を得ることを主目的に、1994年から1999年までミンククジラ捕獲調査(JARPN)を実施しました。

このJARPN調査によって、日本列島を挟んだ太平洋側と日本海側のミンククジラは各々独立した繁殖活動を行っている集団(系統群)であることを証明したほか、同じ集団(オホーツク海・西太平洋系統群)に属していても、日本の沿岸と沖合並びにオホーツク海とで年齢や性によって棲み別けをする傾向が強いことを明らかにしました。 更にこの集団が最近ではサンマやカタクチイワシ、スケトウダラ等を主として捕食しており、しかも量的にも場所的にも漁業と競合している可能性が高いこと等が明らかになったことから、水産資源の包括的管理のためには、鯨類を含めた資源調査の必要性が強く認識されるようになりました。

こうした経緯を踏まえて、JARPNを第二段階へと発展させる調査(JARPNII)が2000年から開始され、2年間の予備調査の結果を踏まえて今年から本格調査に入りました。 JARPNIIで最も優先される課題は、鯨類の餌として消費される生物種の量や嗜好性を調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺海洋生物資源の複数種一括管理に貢献することにあります。

そのために計量魚探や中層トロールによる調査が鯨の捕獲調査と並行して行われております。 捕獲調査対象鯨種も従来のミンククジラ(体長平均8m、資源量25,000頭)に加えて、海洋生態系に及ぼす影響がミンククジラを凌ぐと推定されている大型で資源量が多いニタリクジラ(体長13m、資源量23,000頭)やマッコウクジラ(体長雄15m・雌11m、 資源量102,000頭)に、本年度からは更にミンククジラの資源量を超えるまでに資源が回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長14m、資源量28,400頭)に範囲を拡げました。

JARPNIIではこうした摂餌生態の解明の他に、汚染物質が海洋生態系に及ぼしている影響の解明や、それぞれの鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいくことにしております。 この科学目的のための捕獲調査は、国際捕鯨取締条約第8条によって締約国の権利として認められているものであります。 また、漁業資源の適切な管理を実現させるための鯨類調査の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く指摘されています。

2.調査内容

JARPNII調査では、どのような種類の鯨が、どのような餌をどの位食べているのか、あるいは鯨に捕食されている魚やイカは、どのような生物を食べているのかを重点的に調べることになっています。 従って、採集した鯨の胃や腸の中身だけでなく、その鯨が泳いでいた海域にいる魚の種類や量を調べるために、計量魚探を搭載し、中層トロール網を曳くことのできる調査船が鯨を採集する3隻の船の他に投入されています。

海の中に生息する生物の種類と、鯨の胃内容物を比較することで、その鯨がどのような種類の魚を好んで食べるかが解り、海の中に生息する魚の量と、その海域の鯨の数と各々が食べた量を調べると、鯨が餌としている魚の資源にどの程度の影響を与えているかが解ってきます。

今年度は第1回目のJARPNII本格調査として、7月5日から9月18日にかけて実施しましたが、


(1) ミンククジラは、道東沿岸や沖合(8及び9海区)の北緯43度以北など調査海域の北側で主に12℃〜15℃の水温域で発見されたが、ニタリクジラはこれとは対照的に調査海域の南側の主に23℃の水温帯を中心とする暖水域で発見された。 また、イワシクジラはこれらの中間域で発見され、北緯38度から北緯45度の広い緯度範囲に分布していることが明らかとなり、これら3つの鯨種が分布や餌生物など時空間的に棲み分けしていることが明らかになった。

(2) これらの餌生物は時期や海域によって変化しており、ミンククジラは沖合では主に大型のサンマを捕食していたのに対して、北海道沿岸域では主に大型のカタクチイワシやオキアミを消費していた。 また、7海区のニタリクジラは5〜6月にオキアミ、7〜8月には体長5〜7cmのカタクチイワシを捕食していることを明らかにしてきたが、今次調査により,沖合域(8及び9海区)では7月にはカタクチイワシのシラスを、また8月には7海区と同じ大きさのカタクチイワシを捕食していることが明らかになり、ニタリクジラの食性は沖合域においても季節変化のあることが示唆されました。 さらに、イワシクジラは調査海域の北側では、主にカイアシ類やオキアミ類を捕食し、南側や9月など後半の時期にはカタクチイワシを利用していることが判明した。

(3) 沖合域では、ミンククジラとイワシクジラの分布域が一部重なっており、同じ日に捕獲した両鯨種の餌生物は、ミンククジラが大型のサンマを主体としていたのに対して、イワシクジラではカイアシ類やオキアミ類を主要な餌生物として利用しているものの、ある個体ではサンマやカタクチイワシなどもかなり利用しているなどして、両種がその分布や餌生物において、同一生態系の時空間を巧みに使い分けている可能性が示唆された。

(4) ミンククジラは主にサンマ漁場、ニタリクジラはカツオ漁場の周辺で多数発見される傾向が今年も認められたが、7海区では大型台風通過に伴う水温の低下によりカツオ漁場が大きく変化し、ニタリクジラの発見分布もこれを反映して大きく変化し、これまで多数発見されていた高密度海域は形成されていなかった。 このような分布の変化には、海況変化に伴う餌生物の分布の変化に呼応したものと考えられ、餌生物とともに海洋環境との関係が示唆された。

(5) 9月に実施した道東沿岸域の調査では、ミンククジラは、ごく沿岸ではカタクチイワシやオキアミを、そして沖合ではサンマの漁場付近でサンマを消費していることが明らかになり、道東の局所的な海域内であっても、本種の食性が多様且つ広い適用性を有していることが明確となった。

(6) マッコウクジラの胃内容物からは、昨年と同様深海性イカ類が認められたほか、アカイカの未消化物が確認され、表層生態系との関係のあることが示唆された。

(7) 9海区では、これまでの調査と同様に、シロナガスクジラやナガスクジラなど多数の大型鯨類が発見された。


といった貴重な情報を得ることに成功しました。

3.調査の概要

航海日数

平成14年6月29日(出港)〜平成14年9月23日(入港) 87日間

調査日数

平成14年7月 5日(開始)〜平成14年9月18日(終了) 76日間

船団構成

調査員・監督官

調査団長  藤瀬 良弘 ((財)日本鯨類研究所 研究部部長)
水産庁監督官 佐藤 英輔   (仙台漁業調整事務所)
水産庁監督官 長友 隆典   (水産庁資源管理部遠洋課捕鯨班)
水産庁監督官 鍋島三千年   (水産庁資源管理部遠洋課捕鯨班)
調査員  (財)日本鯨類研究所 藤瀬良弘他13名、(独)水産総合研究センター遠洋水産研究所より 川原重幸他2名

調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船     日新丸(7,575トン) 遠山 大介 船長 以下123名
目視採集船    勇新丸 ( 720トン) 亀井 秀春 船長 以下17名
目視採集船   第1京丸( 812トン) 三浦 敏行 船長 以下21名
目視採集船   第25利丸(740トン) 小宮 博幸 船長 以下22名
目視専門船    第2共新丸( 368トン) 木村 巧 船長 以下22名
餌生物調査船 俊 鷹 丸 ( 889トン) 嶌田 佐 船長 以下28名

総探索距離(目視採集船3隻の合計)

11,497.3 マイル

主たる鯨類の発見数(目視採集船 3隻の合計、仮集計)

ミンククジラ 133群   141頭
ニタリクジラ 100群  129頭
マッコウクジラ 259群  556頭
イワシクジラ 120群   212頭
シロナガスクジラ 28群    37頭
ナガスクジラ  34群   47頭
ザトウクジラ 6群   6頭
ツチクジラ  9群   48頭

標本採集頭数

ミンククジラ      100頭
ニタリクジラ      50頭
マッコウクジラ      5頭
イワシクジラ    39頭

この他、小型捕鯨船を用いた沿岸域調査が9月10日から調査を行っており、この調査ではミンククジラ50頭の採集を予定しています。

実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター 遠洋水産研究所

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