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2012/13年第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の調査結果について


平成25年4月5日
財団法人 日本鯨類研究所


1.JARPAIIの経緯


当研究所は日本政府からの調査実施許可と財政支援を受けて、1987/88年から2004/05年に至る18年間の長期にわたり、鯨類の持続的利用の達成に資することを目的として南極海鯨類捕獲調査(JARPA)を実施した。 その結果、南極海のクロミンククジラ資源に関する膨大な科学的情報を収集して、多大な成果をあげた。


JARPAで得られたデータの解析から、南極海生態系がナンキョクオキアミを鍵種とする単純な構造をもち、オキアミを巡ってヒゲクジラ類の間で競合関係があること、さらに、初期の商業捕鯨による乱獲で低水準にあったザトウクジラ、ナガスクジラ等の資源も、商業捕鯨モラトリアム導入以前から実施されて来た資源保護により、近年では目覚ましい回復傾向を示していることが明らかとなった。 これらの調査結果は、いずれも、ヒゲクジラ類の資源を適切に管理していくためには、単一鯨種ごとに資源動態の解析やその将来予測を行うのではなく、南極海生態系の構成員としての鯨類の役割を明らかにし、鯨種間関係も併せて総合的に考える必要のあることを示唆している。


JARPAの結果を受けて、我が国は鯨類を含む南極海生態系のモニタリングを行うとともに、適切な鯨類資源管理方法の構築に必要な科学的情報を得るために、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を実施することを決定した。 当研究所は、日本政府からの調査実施許可と財政支援を受けて、JARPA に引き続き2005/06年から2回の予備調査を経て、2007/08年から本格調査を開始した。


JARPAIIの調査目的は、(1) 南極海生態系のモニタリング、(2) 鯨種間競合モデルの構築、(3) 系群構造の時空間的変動の解明、(4) クロミンククジラ資源の管理方式の改善である。 JARPAIIは、致死的調査と非致死的調査手法を組み合わせた、南極海における総合的な鯨類調査である。


2.今次調査の結果概要


今次調査は、2回の予備調査を含めJARPAIIの8回目の調査であった。 今次も、暴力的な反捕鯨団体であるシー・シェパードによる執拗かつ悪質な妨害活動を受けたが、1月26日から3月14日まで調査海域において捕獲調査を実施した。 調査日数48日間のうち実質調査日数は延23日であり、妨害及び妨害船回避に延21日を費やした。 その他は悪天候が3日、補給が1日であった。 このため、調査海域の全域は、調査できなかった。 特にクロミンククジラのI系群およびP系群の分布状態や混合率についての知見を得ることを目的として設定したV区の海域はほとんど調査できず、採集した標本もわずか1個体であった。 また、III区東やIV区の海域も、調査した海域は一部となり、目標標本数のクロミンククジラ850頭±10%、ナガスクジラ50頭を大きく下回る、クロミンククジラ103頭の採集に終わった。 更に、当初計画していた鯨類の資源量推定を目的とした広域目視調査は、全く実施出来なかった。


しかしながら、近年の調査妨害等のために2005/06JARPAII以降、標本が採集できなかったIV区プリッツ湾海域で50頭以上の標本を得ることが出来たほか、後述するような経年的な変化を解析する研究に必要不可欠な、脂皮厚や胃内容物の重量、体重などの調査データを得ることができた。


また目視調査も実施し、大型鯨の分布情報の収集に努めた。更にシロナガスクジラ、ザトウクジラやミナミセミクジラの自然標識撮影やバイオプシー採取などの非致死的調査のデータも収集したほか、海洋観測も実施して鯨類の分布に関する知見の収集に努めた。


(1) 調査海域

今次調査では、南緯62度以南、東経35度〜175度を捕獲調査海域とした(図1)。 SSからの直接的な妨害と回避行動のため、第IV区西の南部海域とプリッツ湾は一定程度の調査活動を行うことが出来たが、第III区東、第IV区東、第IV区西の北部及び第V区の海域は、大半が未調査となった。

調査海域図
図1.今次調査の調査海域図
(2) 航海日数及び調査日数:

航海日数: 平成24年12月28日(出港)〜平成25年4月7日(入港)   101日間
調査日数: 平成25年1月26日(調査開始)〜平成25年3月14日(終了)   48日間

(3) 調査員:

調査団長 田村 力 ((財)日本鯨類研究所 調査研究部海洋生態系研究室長) 以下9名

(4) 調査船と乗組員数(入港時:調査員を含む):

調査母船 日新丸  (8,044トン 小川 知之船長 以下103名)
目視採集船 勇新丸 (720トン   山内 善行船長 以下19名)
多目的船 第二勇新丸 (747トン 廣瀬 喜代治船長 以下17名)
多目的船 第三勇新丸 (742トン 佐々木 安昭船長 以下17名)
合計 156名

(5) 総探索距離:

2,103.3 浬

(6) 主な鯨種の発見数(一次及び二次発見の合計):

クロミンククジラ 149群 280頭
シロナガスクジラ 4群 6頭
ナガスクジラ 61群 241頭
ザトウクジラ 227群 412頭
ミナミセミクジラ 4群 5頭
マッコウクジラ 10群 10頭
ミナミトックリクジラ 8群 13頭
ミナミツチクジラ 1群 5頭
シャチ 16群 170頭
ヒレナガゴンドウ 2群 92頭
ダンダラカマイルカ 1群 1頭
アカボウクジラ科鯨類 12群 18頭

(7) 標本採集数:

クロミンククジラ:103頭 (オス:50頭,メス:53頭)

(8) 自然標識記録(個体識別用写真撮影):

シロナガスクジラ:3頭
ザトウクジラ:7頭
ミナミセミクジラ:1頭

(9) バイオプシースキン標本採取数 :

ザトウクジラ:3頭

(10) 排泄物及び吐き戻し観察:

排泄物の観察:観察例無し
遊泳中の吐き戻し:観察例無し

(11) 衛星標識装着:

ザトウクジラ1頭に試みるも成功せず。

(12) 海洋観測:

XCTD(水深1,000mまでの鉛直水温・塩分情報):55点

(13) 海上漂流物(マリンデブリ)調査

観察例無し

(14) 調査結果要約(今次の捕獲調査で分かったこと)

・捕獲したクロミンククジラ103頭のうち雄が50頭、雌が53頭で、標本に占める雌雄の割合は雌の方がやや高かった(雄48.5%、雌51.5%)。 成熟率は、雄が62.0%、雌が49.1%であった。 妊娠個体を含む成熟雌26頭のうち、泌乳個体は認められなかった。 また、捕獲した未成熟個体46頭の胃内容から乳は確認できなかったことから、JARPA以来26回の調査結果と合わせて、離乳前の個体が本調査海域には分布していないことが強く示唆されている。
・資源の再生産に関与する(見かけ上の)妊娠率は96%以上であり、従来と同様に高い値を示した。 このことは、クロミンククジラが依然として繁殖状況が健全であることを示唆している。
・今年度の調査では、IV区東では、北部海域・南部海域共に、未成熟個体のみが採集された。 IV区西は、南部海域では、雄は成熟個体の割合が高かったが(66.7%)、雌は未成熟個体のみが採集された。 IV区プリッツ湾海域では雌雄とも成熟個体の割合が高く、唯一成熟妊娠雌が認められるなど(52.2%)、海域によって性成熟組成に違いが見られた。 過去の調査結果から、IV区東や西の南部海域でも、調査船が容易に進入できないポリニア(海氷の一部が開いた開氷域)の中に、多くのクロミンククジラが入り込んでいた可能性が高いことが考えられた。 今年度の調査でポリニア内の調査は、SSの妨害船回避のため実施できなかったが、成熟妊娠雌個体はプリッツ湾に代表されるような高緯度海域の氷縁際に卓越しているという従来の知見を確認することができた。 また、クロミンククジラの未成熟個体は沖合域、成熟妊娠個体は高緯度海域の氷縁際に卓越するという傾向が、より顕著になってきた可能性が示唆された。 このような傾向を踏まえれば、クロミンククジラの資源状態を把握するために、引き続き広範囲かつ詳細な調査が重要であることが示唆された。
・クロミンククジラの主要な餌生物は、今次調査においてもナンキョクオキアミであった。 従来、水深が500mよりも浅いところで捕獲したクロミンククジラはコオリオキアミが主要餌生物であることが多かったが、今年はコオリオキアミを主要餌生物とする個体は皆無であり、プリッツ湾で採集した1個体からわずかに認められたのみであった。 このことは、プリッツ湾でのオキアミ類の分布が変化した可能性を示唆しており、今後の調査によって明らかにする必要がある。
・近年、クロミンククジラの栄養状態が悪化しつつあるとの報告がある(Konishi et al, 2008)。 この報告は、JARPAやJARPAIIでしか得られないクジラの栄養状態の指標となる脂皮厚や胃内容物の重量データ、体重などの解析による結果である。 このような経年的な変化を解析する研究では、連続した調査データが必要不可欠である。
・JARPAIIでは、採集されたすべての鯨から、鯨の年齢査定に必要な耳垢栓や、栄養状態・健康状態の判定に必要な脂皮厚、胃内容物、寄生虫の寄生状態など、数多くのデータや標本が得られている。 これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後、様々な分野の研究者により分析及び解析が行われ、鯨類資源の管理のみならず、多分野の研究の進展に寄与することが期待される。 研究成果については、国際捕鯨委員会や各分野の学会などで公表される予定である。

(15) 調査結果要約(今次の目視調査で分かったこと):

・調査期間を通じて、種を判定できた鯨種は11種類で、ヒゲクジラ類はクロミンククジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ及びミナミセミクジラの5種類を確認した。 また、ハクジラ類はマッコウクジラ、ミナミトックリクジラ、ミナミツチクジラ、シャチ、ヒレナガゴンドウ及びダンダラカマイルカの6種類を確認した。
・鯨種別の発見群頭数では、ヒゲクジラではザトウクジラ(227群412頭)が圧倒的に多く、クロミンククジラ(149群280頭)がこれに続いた。 ナガスクジラは、61群241頭とクロミンククジラに匹敵する頭数であった。 ハクジラ類ではシャチ(16群170頭)が最も多かった。
・今次調査では、ザトウクジラは調査海域の南部海域・北部海域問わずに発見が多く、クロミンククジラを凌いでいた。 今から約20年前の目視調査では、ザトウクジラの発見数はクロミンククジラの約5分の1となっており、今と大きく異なっていた。 目視調査における発見密度指数からは、クロミンククジラは経年的な変化が認められないものの、ザトウクジラのそれは近年増加傾向にあり、このことから本調査海域では、ザトウクジラが急速に回復してきているということを示唆している。
・今次調査では、クロミンククジラが卓越していた海域は南緯66度以南のプリッツ湾のみであった。 つまり、沖合から氷縁付近までは、ザトウクジラやナガスクジラが占有し、クロミンククジラは氷縁から氷の中に形成されたポリニアの中まで押しやられ、沖合での分布は限られていたものと考えられた。 このことは、ザトウクジラやナガスクジラの近年の急速な資源の回復により、索餌域でのクロミンククジラの分布が変化しているというJARPAとJARPAIIにおけるこれまでの結果を支持する結果である。
・海洋観測を積極的に実施して、鉛直水温と塩分の情報を、計55点から収集した。 これらの情報は、鯨の分布情報と合わせて解析することで、鯨類の分布と海洋環境に関する研究の進展に寄与することが期待される。
・研究成果については、国際捕鯨委員会や各分野の学会などで公表される予定である。

表1.今次調査で捕獲したクロミンククジラの生物調査項目と標本数(データ数)

生物調査項目


3.今次調査に対する反捕鯨活動家による妨害活動

日本が実施しているJARPAIIは国際捕鯨取締条約(ICRW)に基づくものであり、合法的な調査活動である。 暴力的な反捕鯨団体シー・シェパードが行っている妨害活動はこの調査活動に従事する乗組員の生命・財産および船舶の安全を脅かすものであり、このような執拗で危険極まりのない妨害行為は決して許されるべきものではない。
このようなシー・シェパードによる妨害行為は、国際捕鯨委員会(IWC)において捕鯨に対する各国の立場にかかわらず非難されており、シー・シェパードを名指しで非難した声明も全会一致で採択されている(2008年、https://iwc.int/intersession08)。
今次調査でのシー・シェパードによる妨害活動の概要については、当研究所のホームページ(http://www.icrwhale.org/gpandseaJapane.html)で、写真、ビデオ映像及び当研究所プレスリリースを見ることができる。
これは捕鯨の是非に関する問題ではなく、海上の安全・暴力行為に関する問題であることについて、IWCの加盟国の立場は一致している。 シー・シェパードによる妨害活動に関しては国際海事機関IMOでも問題視されている。 IMO海上安全委員会は決議MSC 303(87)を採択し、海上での示威活動で意図的に人命を危険に晒す行為を非難している。
当研究所と共同船舶が起こした米国での訴訟では、第九巡回区控訴裁判所が12月に、仮処分命令を発し、シー・シェパードに所属する船舶は調査船から500ヤード(約457メートル)以内に近づかないこと、また、物理的攻撃を行わないことや調査船の安全を脅かす航行を禁じた。 それにも関わらず、本年2月15日には捕獲した鯨を日新丸に引き揚げる作業(渡鯨)を行っていたところに異常接近を繰り返したり、2月20日および25日には日新丸がタンカーから補給を受けるのを妨害するために体当たりを行うなど危険な妨害を行った。 特に給油作業を妨害したことは、極めて危険な行為だけでなく非人道的で悪質であり、一歩間違えば油流出による海洋汚染をも引き起こすものである。 2月25日には第九巡回区控訴裁判所がシー・シェパードの行っている妨害行為等から、同団体を『海賊』と認定するに至った(http://cdn.ca9.uscourts.gov/datastore/general/2013/02/25/1235266.pdf)が、それにも関わらず裁判所の命令を無視して、今年も例年同様に数々の危険な妨害行為を行ったことは、法治国家では到底許されない行為であり挑発である。 今次調査でのシー・シェパードによる妨害活動の概要については別途資料(2012/13年第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の妨害行動の概要について)を参照されたい。
一方、オランダ政府及びオーストラリア政府は、シー・シェパードの船舶に対して船籍を与えているにもかかわらず、これらの船舶による暴力行為を止めることができなかった。 さらにオーストラリア政府は、シー・シェパードに対して港を提供するなどその行為を容認する姿勢を打ち出していると言わざるをえない。
こうした、シー・シェパードの妨害行為を事実上容認したり、そのような妨害行為によって生じた結果を歓迎する姿勢は、エコテロリズムを推進しているものと言わざるを得ない。 これら2カ国が国際社会の一員であるとするならば、国際法の定めに則り、その責任を果たすよう、あらゆる手段を講じ、シー・シェパードの犯罪行為に対しては厳正に対処することを重ねて、強く要請する。


4.これまでの南極海での鯨類調査の成果とそれに対する科学的評価

JARPAとJARPAIIの成果により、私たちは鯨類の資源状態や鯨類生物学に関して科学的な知見を持ち得ることとなり、情報は年々蓄積され、増加している。 これらの知見は多分野にわたっており、国内外の研究者にとって非常に価値のあるものとなっている。
その一つとして調査対象であるクロミンククジラの栄養状態が年々悪くなっている傾向が出てきており、その理由として1.同じような餌生物を利用しているヒゲクジラ(特に資源回復が目覚しいザトウクジラやナガスクジラ)の増加によって競合が生じている、2.主な餌生物であるナンキョクオキアミが地球温暖化などの影響で減少している、などが考えられている。 一方で、今次調査でも明らかになっているように、クロミンククジラの見かけ上の妊娠率は96.2%と高く、また調査海域における目視調査から推定されている資源量も変動はあるものの減少傾向は示されていない。 従って、クロミンククジラの餌環境は年々悪くなってきてはいるが、妊娠率や個体数の減少までは引き起こしてはいないと予測される。 これらのことは、数回の調査でわかることではなく、長期間の調査から得られたデータによって、初めて明らかになることであり、長期モニタリング調査の重要性を示すものである。 そして、今後も調査を継続しなければ、クロミンククジラの資源状態がどのように推移するかを明らかにすることは出来ない。 今次調査でも目標標本数に達しなかったことによるJARPAIIの調査目標への影響については、今後の解析をまたなければならないが、貴重な情報とデータが収集されており、着実に情報が蓄積されていることは明らかである。
IWC科学委員会はこれら南極海での鯨類捕獲調査について評価し、「(JARPA)調査のデーターセットは、海洋生態系における鯨類の役割の幾つかの側面を解明することを可能にし、その関連で科学委員会の作業や南極の海洋生物資源の保存に関する条約(CCAMLR)など、その他の関連する機関の作業に重要な貢献をなす可能性を有する」と結論づけている。 加えて、「JARPAの成果が南半球におけるミンククジラの管理を改善させる可能性がある」とも結論づけている。
こうした調査の成果や科学的評価については、当研究所のホームページで参照できる(http://www.icrwhale.org/JARPASeika.html)。


(参考1)

国際捕鯨取締条約第8条(抜粋)

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。

2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。


以上


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