（一財）日本鯨類研究所

• サイトマップ

• 概要

• 日鯨研を応援する

• 調査研究

• Q&A

• リンク

• プレスセンター

• アーカイブ

• 現在地：
• ホーム＞
• 和文サイトマップ＞
• プレスセンター＞
• メディアリリース＞
• 2012年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて−

英語ページへ

平成24年8月10日
財団法人 日本鯨類研究所

(1) 経緯

第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII：通称　ジャルパン・ツー)は、日本政府からの特別許可を受けて、2000年から実施している調査です。
この調査は、鯨類が消費する餌生物の種類や量、鯨類の餌生物に対する嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の水産資源の包括的管理に貢献することにあります。
この調査の前身である第一期調査（JARPN）では、ミンククジラの系群構造の解明を目的に1994年から1999年まで実施し、多くの遺伝学的・生物学的情報を収集し、同資源の資源評価に貢献してきましたが、同時に、ミンククジラが漁業対象魚種を多量に捕食していることが観察されました。このことは、鯨類のみならず水産資源全体を包括的に管理していく必要のあることを示しており、第一期調査に続き、鯨類とその餌生物を含めた総合的な調査としてJARPNIIが計画されました。
このため、調査対象には、従来からのミンククジラ(体長８m、資源量２５,０００頭)に、大型で生物量も大きく、また捕食量が生態系に与える影響が大きいと推定されるニタリクジラ(体長１３m、資源量２５,０００頭)、ミンククジラの資源量を超えるまでに回復してきていたイワシクジラ(体長１４m、資源量２８,５００頭（東太平洋を含まず）)、表層生態系に関係するアカイカを消費するマッコウクジラ(体長雄１５m・雌１１m、資源量１０２,０００頭)を加えた４鯨種に拡大しました。 また、鯨類が利用している餌生物の分布や存在量を推定するため、計量魚探や中層トロールを装備した調査船を用いて、鯨の捕獲調査に加えて餌環境調査も実施しています。
JARPNIIでは、こうした鯨類の摂餌生態調査の他に、鯨類や海洋生態系への化学汚染物資の影響の把握や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいます。
日新丸調査船団は、JARPNIIの下で実施されている沖合域調査を担当していますが、この他、沿岸域の捕獲調査を（社）地域捕鯨推進協会が小型捕鯨船を用いて担当しています。
我が国が実施している鯨類捕獲調査は、国際捕鯨取締条約（ICRW）の第８条（別記参照）によって締約国の権利として認められている正当な科学調査です。 また、漁業資源の適切な管理の実現に鯨類調査が必要であることは、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く支持されています。
なお、これまでにJARPNIIで収集されたデータおよび標本に基づく調査・研究の結果については、2009年1月にIWC/SCが主催した専門家グループによる評価会議において審議され、高い評価を受けました。 その報告書は、2009年6月に開催されたIWCの科学委員会において報告されています。 現在のJARPNIIは、それらの議論を踏まえた調査の改善を可能な限り取り入れて、実施しています。

(2) 調査概要

本年度の沖合域調査は、濃霧などの天候不良に悩まされた他、調査の前半に台風３号の通過のため数日間にわたって避航を余儀なくされたことなどから、８０日間の調査期間中にイワシクジラは計画通りの捕獲調査を行うことが出来ましたが、ミンククジラ、ニタリクジラおよびマッコウクジラについては予定していた標本を得ることが出来ませんでした。 しかしながら、本年の調査では、以下に示すような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。

1. 調査目的

(1)　鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明
(2)　鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握
(3)　鯨類の系群構造の解明

2. 実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター　国際水産資源研究所

3. 調査海域（図１）

日本沿岸（もしくは東経１４５度）から東経１７０度まで、北緯３５度以北の北太平洋(７、８、及び９海区)の一部海域

4. 航海日数及び調査日数

航海日数 ： 平成24年5月16日（出港）〜平成24年8月03日（入港） 80日間
調査日数 ： 平成24年5月21日（開始）〜平成24年7月28日（終了） 69日間
*　独立行政法人水産総合研究センター所属の俊鷹丸が、7月25日から8月21日の28日間、JARPNIIに参加し、餌環境調査を実施。

5. 船団構成
１）調査員

調査団長　坂東　武治（(財)日本鯨類研究所 調査研究部　主任研究員）
日本鯨類研究所より　坂東　武治　以下４名
国際水産資源研究所より　渡邊 光　以下７名　（俊鷹丸）

２）調査船と乗組員数（出港時：調査員を含む）

調査母船 日　新　丸 （ ８，０４４トン　 小川　知之 船長以下１０９名）
目視採集船 勇　新　丸 （７２０トン　 山内　善行 船長以下１９名）
目視採集船 第二勇新丸 （７４７トン　 佐々木 安昭 船長以下２０名）
餌環境調査船 俊　鷹　丸（１,２２８トン　 秦　一浩船長以下３１名）

6. 総探索距離

２,３２５.９浬　（目視採集船２隻の合計）

7. 主な鯨類の発見数

(日新丸調査船団の一次及び二次発見の合計)
ミンククジラ ８２群８５頭
イワシクジラ １７０群３０４頭
ニタリクジラ ７０群８６頭
マッコウクジラ ８４群２１８頭
シロナガスクジラ 　　５群　　５頭
ナガスクジラ 　４５群　６１頭
ザトウクジラ 　２９群　３５頭
セミクジラ 　　　２群　２頭

8. 標本採集数

ミンククジラ 　７４頭
イワシクジラ 　１００頭
ニタリクジラ 　３４頭
マッコウクジラ 　　３頭

9. 自然標識記録（個体識別用写真撮影）

セミクジラ：4頭

10. バイオプシースキン標本採取数

セミクジラ：1頭、イワシクジラ：4頭

11. 本年度の捕獲調査結果要約

(1) ミンククジラは7海区を中心に採集されました（図２）。

採集した74頭のうち、雄が58頭、雌が16頭であり、例年同様雄の割合が高い値を示しました（雄78.4％）。 性成熟率は雄63.8％、雌25.0％で、成熟雌4頭は全て妊娠していました（表１）。

今年度の調査では、これまでの調査で初めて５月下旬から６月上旬の表面水温が６℃台と低い時期に釧路沖で調査を実施しました。 その結果、ミンククジラはすでにこの時期から釧路沖に来遊し、スケトウダラを捕食していることが胃内容物の調査から明らかになりました（図３）。

今回の結果から、釧路沖では春から秋にかけてミンククジラがスケトウダラを餌生物として利用していることが明らかとなり、ミンククジラとスケトウダラの関係が釧路沖ではより強いことが示唆されました。 また、同時期に、津軽海峡東方の八戸沖では、ミンククジラは主にカタクチイワシを捕食していることが明らかとなり、ミンククジラは、海域によって、利用する餌生物を変えており、今後、ミンククジラの時空間的な摂餌生態を解析する上で、有用な情報を得ることができました（図3）。

(2) イワシクジラは東経150度から170度の沖合域に広く分布し、東西の幅広い海域から標本が採集されました（図2）。 採集したイワシクジラ100頭のうち、雄は44頭、雌は56頭であり、やや雌の割合が高い値を示しました（表1）。 雄の成熟率は70.5％、雌の成熟率は80.4％であり、雌雄ともに高い値を示しました。 56頭の成熟雌中37頭は妊娠しており、成熟雌中の妊娠雌の割合は82.2％と高い値を示しました。 性状態による棲み分けなどを考慮する必要はありますが、イワシクジラの妊娠率は例年同様高い値を示し、このことはイワシクジラの繁殖状況が健全であることを示唆していると考えられます。 胃内容物はカイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、カタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種が認められました（表2）。

今年度の調査では、これまでの調査で初めて５月下旬から６月上旬の表面水温が６℃台と低い時期に釧路沖で調査を実施しました。 その結果、ミンククジラはすでにこの時期から釧路沖に来遊し、スケトウダラを捕食していることが胃内容物の調査から明らかになりました（図3）。

しかしながら、主要餌生物についてみると、これまでカタクチイワシが主要餌生物として観察されてきましたが、近年になってサバ属魚類（マサバ・ゴマサバ）が餌生物種として加わるようになり、今次調査でもサバ属魚類やマイワシなどが主要餌生物として観察される個体が増えてきました。 近年の研究により、カタクチイワシ資源の低下が示唆されており、近年認められるイワシクジラの主要餌生物種の変化はこれを反映している可能性があります。 今後、イワシクジラの食性と餌環境の変化について、調査・研究を進めて、この現象を解明したいと考えています。

(3) 今年度のニタリクジラの採集は、７月中下旬に、東経１５６度から１５９度に設定された生態系共同調査海域において集中的に実施しました（図2）。 採集した34頭のうち、雄は11頭、雌は23頭であり、雌の割合が高い値を示しました（雌67.6％、表1）。 性成熟率は雄54.5％、雌82.6％であり、特に雌で高い値を示しました。 成熟雌19頭中10頭が妊娠しており、妊娠個体の割合は52.6％でした。生態系共同調査海域において採集したニタリクジラは、同海域の北側ではカタクチイワシを、また南側ではオキアミを主に利用しており、海域によって異なる餌生物を利用していました。 今後、海洋構造と餌生物の分布状況とも併せて解析を行い、ニタリクジラの餌生物への嗜好性の解明に貢献できるものと考えられます。 また、イワシクジラと明瞭な棲み分けが観測されており、これら鯨種の分布と俊鷹丸の調査も含めた餌環境の情報とも併せて解析することにより、両鯨種の分布特性を明らかにしたいと考えています。

(4) マッコウクジラは、７海区中央部で雄1頭、雌2頭の採集を行いました。 採集した雌個体は、それぞれ妊娠中及び泌乳中の個体でした。 胃内容物としては、主としてクラゲイカ、ヒロビレイカ、ツクシユウレイイカ等の中深層性のイカ類が観察されました。 これまでの解析から、マッコウクジラは海洋構造を反映した分布をしている中深層性イカ類を主に利用していることが明らかになってきました。 今回の標本も同様の胃内容物調査を行ってマッコウクジラが捕食していた餌生物種を同定し、本種が表層の生態系に与える影響について検討を進める予定です。

(5) 採集されたすべての鯨から、鯨の年齢査定に必要な耳垢栓や歯、栄養状態・健康状態の判定に必要な脂皮厚、化学分析用の組織標本など、数多くのデータや標本が得られました（表3）。

これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後、様々な分野の研究者により分析及び解析が行われ、鯨類資源に関する研究の進展に寄与することが期待されます。 研究成果については、国際捕鯨委員会（ＩＷＣ）や各分野の学会などで公表される予定です。

(6) 昨年度の調査では、東日本大震災により発生した漁船など大型の漂流物の影響で特に夜間の移動が制限されましたが、本年の調査では漂流物はほとんど観察されず、調査を円滑に行うことができました。 また、ミンククジラは沿岸海域、ニタリクジラとイワシクジラは沖合海域を中心に広く分布し、例年同様の分布様式を示しました。

(7) JARPNIIは、上述した鯨類の捕獲調査に加えて、鯨類の餌環境調査も併せて実施しています。 今年度は、独立行政法人水産総合研究センター所属の俊鷹丸が餌環境調査船として参加し、日新丸船団と合同で７月から８月にかけての約3週間にわたって、計量魚探やトロールやプランクトンネット調査により、鯨類の餌環境に関する調査を実施。 鯨類の捕獲調査の結果に加えて、これらの餌環境調査の結果を総合的に解析することにより、ニタリクジラやイワシクジラの分布特性並びに餌生物の嗜好性を含む摂餌生態を明らかにしていく予定です。

12. これまでの北西太平洋における鯨類捕獲調査の成果とそれに対する科学的評価

JARPN及びJARPNIIでは、鯨類の摂餌生態、環境汚染物質のモニタリング、鯨類の系群構造解明に有用なデータが継続的に得られています。 これらの知見は多分野にわたっており、国内外の研究者にとっても非常に価値あるものとなっています。 2009年1月にIWC/SCが主催した外部専門家グループによる評価会議では、JARPNIIについて、「JARPNIIの調査において鯨類の餌に対する習性や摂餌嗜好に関するデータを収集するための著しい努力およびそれらデータや情報の全般的な高品質（を評価する）。 捕獲調査計画は複数の調査船およびプラットフォームにわたって、全般的によく調整されており、また、多くの学問領域にわたるデータを高い水準で同時に収集されたことは賞賛に値する。 これら努力の成果として得られた貴重なデータセットはJARPNII調査計画の目的にとどまらない、幅広い課題に関する一斉解析作業を潜在的に可能にするものである。」との高い評価を受けています。

こうした捕獲調査の成果や科学的評価については、当研究所のホームページでも参照できます（http://www.icrwhale.org/JARPNSeika.html）。

13．これまでの調査から分かったこと及び今後の分析でわかること（本年の調査の科学的貢献）

鯨類捕獲調査では、鯨類の餌消費量、餌嗜好性などの生態系モデルを構築するために重要な知見を得るためのデータが継続的に蓄積されてきています。 2000-2007年のJARPNII調査で得られた鯨類の餌消費量、餌嗜好性などの情報を用いて生態系モデルを構築し、鯨類の捕獲による、カタククイワシ、サンマ、サバなどの日本の漁業資源に与える影響評価を行った研究成果が上記の評価会議に提出されました。 この結果からは、JARPNIIで得られたデータを用いれば、捕鯨が日本の漁業資源に与える影響を評価できる可能性が示されました。 今後さらにデータを蓄積し、より精度のよい推定を行うことは、北西太平洋の漁業資源を管理するために重要です。 また、遺伝データも蓄積され、系群構造の検討が国内外の研究者により進められています。 日本側の研究からは、ミンククジラについては7海区の沿岸域に少数分布する日本海系群（J系群）の個体を除き、北西太平洋はオホーツク・太平洋系群（O系群）によって占められていることが示唆されました。 ニタリクジラについては、北西太平洋で遺伝的差異が見られず、１つの系群で占められることが示唆されました。 イワシクジラも同様に遺伝的差異が認められず、北西太平洋が１つの系群によって占められることが示唆されました。 これらの知見はIWC/SCで現在及び過去に行われたミンククジラやニタリクジラの管理改訂方式（RMP）の適用試験にも用いられています。

本年新たに加わった標本を分析することにより、上記の知見に加えて以下に示すような科学上の進展が期待されます。

(1)春期釧路沖でのミンククジラ集団を確認したことによる、ミンククジラの摂餌回遊生態のより詳細な把握および遺伝データによる系群構造の解明。

(2)イワシクジラの食性をモニタリングすることによる、魚種交替現象とそれに対する鯨類の摂餌戦略の変化の解明。

(3)ニタリクジラの胃内容物と餌生物の分布状況を比較することによる、ニタリクジラの餌生物嗜好性の解明。

(4)マッコウクジラの餌生物情報を集積することによる、マッコウクジラが表層生態系へ及ぼす影響の解明

（参考）　国際捕鯨取締条約第８条（抜粋）

１．この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。

２．前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。

2012年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて− PDF形式

Copyright © 2011 The Institute of Cetacean Research. All rights reserved.