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2010年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)
−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて−


平成22年8月20日
財団法人 日本鯨類研究所


(1)経緯

 当研究所は日本政府からの許可を受けて、1994年から1999年までミンククジラの系群情報の収集を主目的とした北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)を実施しました。 この調査結果とIWC/SCでの議論から、鯨類を含む水産資源の包括的管理のためには、鯨類及びその餌生物を含めた総合的な調査が必要であることが認識されました。 そして、JARPNを発展させた第二期調査(JARPNII:通称 ジャルパン・ツー)が計画され、2000年から実施しています。
このJARPNIIの最優先課題は、鯨類が消費する餌生物の種類や量、鯨類の餌生物に対する嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、 それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の水産資源の包括的管理に貢献することにあります。
そのため、捕獲調査対象鯨種を、ミンククジラ(体長8m、資源量25,000頭)、ミンククジラより大型で総生物量も大きく、 その捕食量が生態系に与える影響が大きいと推定されるニタリクジラ(体長13m、資源量20,500頭)やマッコウクジラ(体長雄15m・雌11m、資源量102,000頭)、 更にミンククジラの資源量を超えるまでに回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長14m、資源量28,500頭(東太平洋を含まず))としました。 また、鯨類が利用している餌生物の分布や存在量を推定するため、計量魚探や中層トロールを装備した餌環境調査船を用いて、鯨の捕獲調査と併行して餌環境調査を行っております。
JARPNIIでは、こうした鯨類の摂餌生態調査の他に、鯨類や海洋生態系への化学汚染物資の影響の把握や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいます。
今回入港する日新丸船団は、JARPNII計画の下で実施されている沖合域調査を担当していますが、この他、沿岸域の捕獲調査(春季に三陸沖、秋季に釧路沖)を小型捕鯨船が担当しています。
我が国が実施している捕獲調査は、国際捕鯨取締条約(ICRW)の第8条(別記参照)によって締約国の権利として認められている正当な科学調査です。 また、漁業資源の適切な管理の実現に向けた鯨類調査の実施の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く支持されています。
なお、これまでにJARPNIIで収集されたデータおよび標本に基づく調査・研究の結果については、昨年1月にIWCが主催して横浜で開催された専門家グループによる評価会議において審議され、高い評価を受けました。 その報告書は、昨年6月に開催されたIWCの科学委員会において報告されています。


(2)調査計画概要

 JARPNIIは、国際捕鯨取締条約に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を経て、2002年より本格調査を実施しています。本年調査計画の概要は以下のとおりです。


1.調査目的:

(1) 鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明

(2) 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握

(3) 鯨類の系群構造の解明

2.調査海域:

北緯35度以北、日本沿岸から東経170度までの北西太平洋(7、8、及び9海区)の一部海域

* 今次調査で目視専門船として参加した多目的船は、北緯35度以北40度以南、東経157度から西経170度までの北西太平洋 (7、8、9及び13海区)の一部海域を調査しました。
調査海域図
図1.今次調査の調査海域
3.標本採集頭数:

本調査における予定された標本数は昨年と同様で、次の通りです。
ミンククジラ 100頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ  10頭

4.調査結果概要:

本年度の沖合域調査は、梅雨前線の影響と太平洋高気圧の停滞に伴う天候の不良や長期間の霧などの天候不順に悩まされ、 また最後には台風の通過もあり、海況が良くない中での調査を強いられました。 このため、イワシクジラとニタリクジラについては計画どおり捕獲調査を行うことが出来ましたが、ミンククジラとマッコウクジラについては予定されていた標本数を採集することが出来ませんでした。
しかしながら、今年の調査では、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。


(1) ミンククジラは、これまでの調査から、日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、 沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸域ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌種を利用していることが明らかになってきました。
今年度の調査においては、調査海域の北東部に分布していましたが、調査海域全体で見ると例年に比べて発見数が少なく、捕獲頭数も14頭にとどまりました。 今年度のミンククジラは、例年と同様に体長30cm程度の大型のサンマを主に捕食していました。サンマはこれまでの調査においても盛夏におけるミンククジラの主要な餌でしたが、 今年は例年よりも我が国周辺海域への来遊量が少なく、東方に偏って分布していると報告されています((独)水産総合研究センターが発表した北西太平洋サンマ漁況予報による)。 今次調査でミンククジラの発見数が少なかったことや沖合の北東部に分布していたことは、主要餌生物であるサンマの回遊がミンククジラの分布にも影響している可能性を示唆しているものです。 今後、餌環境調査の結果とも併せて、ミンククジラの分布とサンマの回遊状況との関係を解析する予定です。

(2) イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、 サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることが、これまでのJARPNII調査から明らかになってきました。
今年度の調査においても、イワシクジラは6月から8月にかけて特に沖合域に広く分布し、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、カタクチイワシなどの魚類まで、 広範な餌生物種を利用しているなどの情報が蓄積されました。 また、イワシクジラは、海域や時期によって異なる餌生物を利用しており、その要因については、餌環境調査船との共同調査によって得られた情報とともに、今後の解析によって明らかになることが期待されます。

(3) ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミ、カタクチイワシ及びヤベウキエソを捕食し、分布にも年変動のあることがこれまでに明らかになってきました。
今年度の調査では、これまでほとんど調査できなかった、7月の沖合域で鯨体標本を採集することが出来ました。他の時期と同様に、主要餌生物は、カタクチイワシなどの魚類及びオキアミ類でした。

(4) マッコウクジラは、8月に今まで捕獲できなかった8海区北側の海域で採集することができました。主要餌生物は、深海性のイカ類でした。 今後胃内容物の詳細な解析を行って、マッコウクジラが表層の生態系に与える影響について解析し、本種の摂餌生態を明らかにしていく予定です。

(5) JARPNII調査は、鯨類の捕獲調査に加えて、鯨類の餌環境調査も併せて実施しています。 今年度は、独立行政法人水産総合研究センター所属の北光丸が餌環境調査船として参加し、日新丸船団と合同で7月から8月にかけて約2週間にわたり、計量魚探とトロールやプランクトンネットによる餌環境調査を実施しました。 その結果、特にイワシクジラの分布とその餌生物や海洋環境との関連についての多くの情報を得ることが出来ました。今後詳細な解析を行って、イワシクジラの分布特性並びに摂餌生態を明らかにしていく予定です。




(参考)国際捕鯨取締条約第8条抜粋

(1) この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、 殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。

(2) 前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。



調査母船日新丸が入港する大井水産埠頭は、国際条約(SOLAS条約)に基づく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」により、
国際埠頭施設の制限区域に指定されているため、関係者以外の立ち入りが制限されておりますので、ご注意下さい。


2010年JARPNII沖合域鯨類捕獲調査の結果概要


1.期間

航海期間:  平成22年6月9日(出港)〜平成22年8月22日(入港) 75日間*
調査期間:  平成22年6月13日(開始)〜平成22年8月18日(終了)67日間
* 多目的船の第三勇新丸は目視専門船として、6月9日から7月18日の40日間航海して調査活動に従事した。
* 独立行政法人水産総合研究センター所属の北光丸は、7月21日から8月10日の21日間航海して調査活動に従事した。

2.船団構成
1)調査員・監督官

調査団長 安永玄太 ((財)日本鯨類研究所 研究部 生態系研究室主任研究員)
日本鯨類研究所より 安永玄太 他6名
遠洋水産研究所より 渡邊 光  他4名

2)調査船と乗組員数(含む調査員)

調査母船 日 新 丸 ( 8,044トン  小川 知之 船長以下119名)
目視採集船 勇 新 丸 (  720トン  廣瀬 喜代治 船長以下20名)
目視採集船 第二勇新丸 (  747トン  佐々木 安昭 船長以下20名)
多目的船 第三勇新丸 (  742トン  小宮 博幸 船長以下18名)
餌環境調査船 北 光 丸 ( 1,246トン  戸石 清二 船長以下24名)

3.総探索距離

3,749浬 (約6,748km:目視採集船2隻の合計、仮集計)
2,150浬 (約3,870km:多目的船、仮集計)

4.主たる鯨類の発見数
(日新丸調査船団の一次及び二次発見の合計)

ミンククジラ 15群15頭
イワシクジラ 188群333頭
ニタリクジラ 104群136頭
マッコウクジラ  94群193頭
シロナガスクジラ  10群 10頭
ナガスクジラ  30群 36頭
ザトウクジラ   5群  6頭


(目視専門船の一次及び二次発見の合計)

イワシクジラ 40群   72頭
ニタリクジラ 45群   58頭
マッコウクジラ 21群   48頭
シロナガスクジラ 27群   35頭
ナガスクジラ  5群    6頭

5.標本採集頭数

ミンククジラ  14頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ   3頭

6.実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター 遠洋水産研究所


発見位置

図2.2010JARPNIIで採集したミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ及びマッコウクジラの発見時の位置
:ミンククジラ、:イワシクジラ、:ニタリクジラ、:マッコウクジラ)。


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