なお、調査母船日新丸が入港する大井水産埠頭は、国際条約(SOLAS条約)に基づく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」により、国際埠頭施設の制限区域に指定されているため、関係者以外の立ち入りが禁止されており、マスコミによる随時の取材が認められていない。
そのため、15日(火)午後に農林水産省にて、調査団長、船長、水産庁漁業指導監督官等による共同記者会見を実施する予定である。
・クロミンククジラの発見は、ほぼ同じ海域を調査した一昨年の結果(1,848群4,917頭を発見)と比較して半分以下となった。
これは単純にクロミンククジラの資源が減少したのではなく、調査海域にザトウクジラが広く多数分布するようになり、これまで分布が優勢であったクロミンククジラが調査海域の南側のパックアイス付近に偏在するという近年の分布傾向を反映したものと考えられる。
図2. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるクロミンククジラの発見位置

・今年は調査海域での氷の変動が、例年よりも複雑であった。
通常、クロミンククジラが集まるW区西側のプリッツ湾ではポリニア(海氷の一部が開いた開氷域)を形成していたため内部の調査ができなかったが、その東方のデイビス海(89°E〜95°E)では、パックアイス内に形成されたポリニアの僅かな隙間をぬって進入し、多数のクロミンククジラを確認及び捕獲した結果、次のような貴重な情報を得た(図5参照)。
・捕獲調査の結果、ポリニアの内部には資源の再生産に重要な役割をもつクロミンククジラの妊娠雌個体が多く入り込んでおり、性状態による棲み分けが認められた。
このことは、調査船が進入できない複雑な氷縁の中にも、多くのクロミンククジラが入り込んでいる可能性が高いことを示唆しているのと同時に、クロミンククジラの資源状態を把握するための調査として、性状態による棲み分けを踏まえた広範囲かつ詳細な海域を調査することが必要であることを示唆した。
・調査期間中にクロミンククジラ551頭(オス:273頭,メス:278頭)を捕獲した。
成熟率は、雄が71.4%、雌が65.5%であり、成熟雌に占める妊娠個体の割合は92.3%と例年同様に高く、クロミンククジラの再生産に大きな問題が生じていないことを示す一つの証拠と考えることが出きる。
今年度の調査では、未成熟個体(体長範囲4.82m〜8.82m)を174個体採集したが、胃内容物の結果からミルクが含まれている個体はいないため、過去の調査結果と同様に、離乳前の個体は本調査海域に分布していないことが示唆された。
海域別では、V区東側では南北海域共に成熟雄が優勢であったのに対し、W区西側北部では未成熟の雌雄が優勢であった。
W区東側の南部海域では成熟雄が優勢であり、パックアイスの奥にポリニアが発達したW区西側やX区西側の南部海域では、成熟雌が優勢であった(図5)。
・本調査海域では、JARPAによりクロミンククジラの2系群の存在が明らかになっているが、その境界については必ずしも合意されていない。
今回得られた標本から、2系群の境界付近における混合率や、境界の経年的な変化の検出など、最新の情報に基づく系群構造解明が期待される。
・ザトウクジラの発見数の多さは他の鯨種を圧倒しており、図3でも示したように調査海域のほぼ全域に分布していた。
過去の調査結果と同様に、今次調査でも改めて本種の資源の順調な回復ぶりが示された。
今後はザトウクジラとクロミンククジラとの間の餌をめぐる関係や分布の変化要因を調査していくことで、鯨類の資源動態の変動メカニズムを明らかにすることが可能となる。
ザトウクジラは特にW区西側海域(東経70度〜100度)で発見が多く、目視専門船の発見密度(単位努力量あたりの発見群数)はクロミンククジラの7倍以上であった。
本年度は水産庁の指示により、本種の捕獲は実施しなかった。
図3. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるザトウクジラの発見位置

・ナガスクジラは、一昨年の調査結果(224群936頭を発見)と比較して、極めて発見が乏しかった。
特にナガスクジラを捕獲対象とした目視採集船は、妨害による調査日数の不足に加えて、発見数が少なく、最後まで捕獲の機会が得られなかった。
目視採集船よりも北側(南緯60度)まで調査を行った目視専門船での発見数が多かったことから、例年と比べてナガスクジラの回遊分布が南まで広がらなかったことが考えられる。
・一方、シロナガスクジラやミナミセミクジラ等の希少種は、過去の調査と比較して数多く発見された。
シロナガスクジラはV区東側の南部海域で、ミナミセミクジラはW区東側の南部海域で集中して発見され、非致死的調査である個体識別写真やバイオプシー標本を収集した。
図4. 2007/08JARPAIIにおける目視専門船と目視採集船によるナガスクジラ(
)、シロナガスクジラ(
)、ミナミセミクジラ(
)およびマッコウクジラ(
)の発見位置

・目視調査、海洋観測調査、餌生物調査等の結果は、捕獲した鯨体からの各種分析用標本とともに、南極海の鯨類資源や南極海生態系の継続的なモニタリングに貴重なデータをもたらした。
餌生物調査では、計量魚探及びネットサンプリングを実施しており、捕獲調査によって採集した鯨体の胃内容物と餌生物の組成や大きさを比較することで、クジラが利用している餌生物が生態系の中でどのような役割を果たしているのかを今後明らかにしていくことが期待される。
また、餌生物調査で推定したオキアミなどの資源量と捕獲したクジラの胃内容物重量などを比較することで、クジラがどのくらいの捕食インパクトを南極海生態系に与えているかを推定することが可能になるなど、将来的な予測も含んだ南極海生態系の研究を行う上で、今回得られたデータが大きく貢献することが期待される。
・捕獲されたすべての鯨から、数多くのデータや標本が得られた。
これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後様々な分野の研究担当者に引き渡されて分析及び解析が行われ、その成果はIWCや各分野の学会などで公表される(表1)。
表1.2007/08JARPAにおけるクロミンククジラの生物調査項目要約

図5.デイビス海におけるクロミンククジラとザトウクジラの棲み分け。クロミンクジラは性成熟度別に示した。
: 成熟雄、
:未成熟雄、
:成熟雌、
: 未成熟雌、
:性成熟度不明(目視のみ)。パックアイスによりポリニア状となったデイビス海では成熟した妊娠雌のクロミンククジラが集中し、入口付近では未成熟個体や成熟雄のクロミンククジラが見られるなど棲み分けが認められ、また、このポリニアの北側では多数のザトウクジラ(
)で占められていた。
